
「AI流を習得して囲碁を強くなるにはどうすればよいか?」について考察していきます。
AIの特徴とは?
「コンピュータ囲碁」すなわちAIが世界最強の棋士を倒してから、もう数年の月日が流れています。
なぜ人類はAIに敗れ去ったのでしょうか?
その理由を紐解くことで、AIの力をあなた自身の碁に還元できるかもしれません。
AI(人工知能)が今までのタイプと明らかに違う点が1つだけあります。
それは「Deep learning(ディープラーニング)」の導入です。
ディープラーニングとは「深層学習」と訳されています。
従来の機械学習をさらに発展させて、より人間の脳に近づけたと解釈してよいでしょう。
機械学習のAIは「取捨選択」を的確にするのが難しく、余計な分岐までくまなく読んでいました。
これではとんでもない変化の余地がある囲碁の世界をすべて読みきることができません。
※詳しくはこちらをご覧ください。
初心者にヒントを与えず、ただ漠然と19路盤を打たせるようなものです。
良し悪しを検証しようにも何を基準にしてよいのか分からないでしょう。
ディープラーニング(深層学習)のAIはある程度「ポイントを絞れるようになった」のが大きな特徴です。
世界最強の実績を持つ「李世ドル」と対戦したときのAlphaGo(アルファ碁)は事前に何百万局の棋譜を読み込ませています。
その上で今度は何千万局の実戦をアルファ碁同士で繰り返しながら、より良いポイントを絞れるようになりました。
それからアルファ碁はさらに進化を遂げて、棋譜を学ばず一から自分で学習して打てるようになっています。
先ほど「初心者にヒントを与えず」と言いましたが、人間も一定のレベルを超えるとあとは己の力だけで学習するのは十分可能です。
私の見解としては「5級」以上なら、本で学ばずともトライ&エラーで自己学習できるのではないかと考えています。
勿論、トライ&エラーの学習方法は膨大な数の対局をこなさないと効果がありません。
新生アルファ碁は一から自己学習したとはいえ、やはり数千万局の対局数をこなしています。
結局のところ、すべては「経験」が物を言います。
機械学習のようにしらみつぶしに読むのは「経験を活かしていない」証拠です。
深層学習では経験を活かすことにより、加速度的に上達していきます。
【経済】AI(人工知能)の最終形態「ドラえもん」は誕生するのか!?〜後編〜
(出典 中田敦彦のYouTube大学)
※興味のある方はこちらも合わせてご覧ください。
経験を活かせるようになれば、あとは「数」の問題なのは明白でしょう。
もはや人間はAI以上の経験を積むことはできません。
だから人間がAIに一度追い越された分野において、再び抜き返すのは絶対に不可能でしょう。
それならAIの戦略や戦術を参考にして上達を目指すのが賢明というものです。
さて、ここで1つの疑問が湧いてきます。
はたしてAIが培ってきた経験を人間が活かす術はあるのでしょうか?
これはイエスでもあり、ノーでもあります。
AI流の習得に欠かせないものとは、いったい何なのでしょうか?
無個性の習得
人間には必ず「個性」が存在します。
また個性は人類存続のためになくてはならないものです。
1つの種、1つの考え方では環境の変化に対応できません。
人類全体として多種多様な個性を持つことは「リスクヘッジ」につながります。
とはいえ、それは全体の話であって個人のことではありません。
個性を持つというのは、言い換えれば「弱点を抱える」のと同じです。
勿論、短所は長所、長所は短所にもなり得ます。
人々が集団で協力し合うのは「短所を補い、長所を活かすため」に他なりません。
それぞれ各分野のプロフェッショナルであることにより、短所を最小限に抑え、長所を最大限活かすことが可能となります。
メジャーリーガーの大谷翔平が生きるために農作業や日曜大工をしていては、野球に専念できないでしょう。
趣味なら話は別ですが、やるべきことはなるべく少ないに越したことはありません。
そういう意味では、囲碁というゲームは完全なる「個人競技」と言えます。
チームを組んで役割分担したり、他の人と協力し合うものではないのです。
大局的な形勢判断(目算)、部分的な読みをすべて自分1人でこなさなくてはなりません。
これは非常に大変な作業になります。
自分1人で会社を立ち上げる、商売を始めるのに匹敵するかもしれませんね。
何せ将棋とは違い、まず土地を探さなくてはならないのですから。
社長に囲碁を嗜む方が多いという話もうなずけます。
※実際に「多い」と言えるのかどうか、確かなデータは存在しません。
たった1人ですべてをこなすというのは、長所を活かすより短所をなくすことが求められます。
どんなに布石が上手くても、中盤戦がボロボロでは話になりません。
また布石~中盤戦はよくても、ヨセが疎かでは勝ちきるのは難しいでしょう。
何にしても「総合力」が囲碁の棋力であることは疑いようのない事実です。
そして総合力で人間をはるかに上回るのが「AI」なのです。
AIにはとにかく短所が見当たりません。
弱いAIはともかくとして、最強AIの短所を見つけるのは至難の技でしょう。
短所がないというのは、すなわち長所もまた見当たらないということです。
ここが最重要ポイントになります。
ゲームでよくある「3すくみ状態」をご存知でしょうか?
火は水に弱く、木に強い
水は木に弱く、火に強い
木は火に弱く、水に強い
いわゆる「じゃんけん」と同じ理屈です。
どんな手を選択しても、必ず「長所」と「短所」を抱えています。
では、ゲームにおいて「最強の属性」とは何だと思いますか?
正解は「無属性」です。
火、水、木、その他の属性との相性はどれも同じです。
得意とするものがない代わりに苦手なものもありません。
もし、これが「じゃんけん」ならどうしますか?
答えは意外と簡単です。
グー、チョキ、パーをバランスよく出せばよいのです。
3回勝負ならそれぞれ1回、10回勝負ならそれぞれ3回とあと1つ何か出します。
これを囲碁に照らし合わせてみると、無個性の意味がよく分かります。
つまり「すべての棋風をバランスよく使う」ということです。
こちらの記事において、棋風を4つに大別しています。
「実利」「厚み」「模様」「乱戦」これら4つの打ち方を一局の中で偏りなく扱うことができるかどうか、そこがポイントになっています。
なにか1つの分野に特化するのでは、AIの打ち方を取り入れるのは難しいでしょう。
AIとは個性のない「万屋(よろずや)」のようなものです。
自分自身を「○○屋」とせず、ありとあらゆる可能性を模索する姿勢が問われます。
いわゆる「オールラウンダー」ですね。
AI流の習得には「何でもこなす」という苦手意識の克服が必要不可欠になります。
AI流とは?
AIの優れた点といえば、何と言っても「形勢判断」でしょう。
囲碁は最善を尽くす必要性のないゲームです。
なぜなら囲碁は1目でも勝てばよいからに他なりません。
欲張ってギリギリを読みきろうとするよりも、余裕を持って安全圏での読みに終始するのが一番でしょう。
形勢判断、目算が正確ならあとは自由自在に読みを働かせられます。
AIは一見完璧なようですが、実は「ここが」弱みでもあります。
「ここ」とは形勢判断による「読み」のことです。
優勢なときのAIは無敵と言っても過言ではありません。
しかし劣勢、もしくは敗勢になると一転して「もがき」始めます。
そのもがく様はさながら往生際の悪い級位者のようにも見えます。
そもそもAIから優勢を築くのは至難の技ですが、勝ちパターンを奪ってしまえば「冷静な読み」を維持できないのです。
つまりAI流の習得には「優勢」が欠かせません。
「いやいや、そんなことできれば苦労しないよ」という声が聞こえてきそうですね。
勿論、毎局ごとに優勢を築くのはとても無理な話でしょう。
そうではなく「優勢=勝ち」にどれだけ結び付けられるかといった話です。
人間の碁はあまりにも優位を手放すことが多いように見受けられます。
これはアマチュアに限らず、プロにも同じことが言えるでしょう。
優勢を勝ちへと導くには「適切な緩み」が必須となります。
最強手の連打というのは、実は意外と大したことありません。
最善、最強を尽くすよりも「適切な緩み」を駆使するほうがはるかに難易度が高いのは間違いありません。
ここを分かっていない方が多くいます。
部分的な最強手を打つのは、誰にでもできます。
己の棋力に見合った「一番強い手」を打てばよいのですからね。
大局的な最善手を打つのも、誰にでもできます。
知識と経験に基づいた「一番よい手」を打てばよいのですから。
難しいのは「リスクを極力減らした妥協」です。
「最善、最強を尽くしてなお、負けたらしょうがない」というのは、もはや二流の考え方でしょう。
「負けたらしょうがない」のではなく「勝つためにどこまで妥協できるか」というのが一流の考え方です。
多くの人が妥協できないのは、ちゃんとした理由があります。
それは「後悔したくない」という想いです。
あなたが学生の頃、恋をしている異性に告白したことはありますか?
よく「当たって砕けろ!」とアドバイスする人がいますが、あれは他人事だから言えるのでしょう。
実際に振られたら、大ダメージは免れません。
「それも経験のうちだから」というセリフには何の説得力もないのです。
もしAIなら、勝つ確率が著しく低い打ち方は避けて通ります。
また仮に関係が良好だとしても、振られる可能性をできる限り下げてから告白するでしょう。
はっきり言って「一か八か」といった賭けはAIの好むところではありません。
ちなみにAIは負けが見えてきたら変な暴れ方をしますが、それまでは慎重を期して打っています。
リスクを取るのが人間の碁であり、リスクを回避するのがAIの打ち方です。
それでは、なぜ人間はあえてリスクを取ってしまうのでしょうか?
それは「精神的に未熟だから」に尽きます。
要するに我慢しきれないわけですね。
プロ棋士には「悲観派」が多いと言われています。
そのため後悔しないように「最善、最強を尽くして」なるべく厳しい手を打とうとしています。
言葉としてはカッコいいのですが、最善・最強を尽くすのは誰にでもできることです。
だって「最も」というのは1つしかないわけですからね。
優勢時の勝ち筋は何通りも存在しているはずです。
プロ棋士はそれこそ、何十通りもの道筋を読んでいます。
その中から「一番よい手」を選ぶわけです。
しかし往々にして、強い手には強い抵抗手段があるものです。
だからこそ、途中でミスをして負けることが多々あります。
AI流の習得には「強い手」という考え方を改めなくてはなりません。
単調に強い手ばかり打つのではなく、硬軟織り交ぜた「強弱のある手」こそAI流に相応しい打ち方なのです。
AIの打ち方を「最善・最強」と位置付けるのは誤りでしょう。
常に「優勢の中」にいれるような着手を選択しているに過ぎません。
ここで今一度、AI流の習得方法をまとめておきましょう。
・最善、最強ではなく「優勢の中」で着手を決める
・1目でも勝てばよいという精神のもと、勝ちを急がない
・偏った打ち方をせず、バランスを重んじる
一見、当たり前のように感じますが、人間の勝ち負けは「真逆」のことが多いでしょう。
すなわち「最善・最強手を打つ」「勝負所で決めに行く」「一貫性を持つ」のは人同士の戦いでは勝ちやすいのです。
人間のレベルなど、その程度なのかもしれません。
AI流は徹底した「負けない打ち方」に他なりません。
あなたがAI流を目指すのであれば、形勢判断(目算)を怠らないようにしましょう。
判断材料がなくては読みの幅も広がりません。
上手相手では何かと大変ですから、下手に教えてもらいましょう。
※詳しくはこちらをご覧ください。
AIの打ち方を表面上だけ真似しようとしても、まったく身に付きません。
確かな形勢判断のもと、妥協を辞さない読み筋こそAI流の習得方法なのです。