
「囲碁と将棋のゲーム性の違い」について考察していきます。
似て非なるもの
囲碁の公式手合いで使われている正式な盤の大きさは「19×19路」です。
対して、将棋の公式手合いで使われている盤の大きさは「9×9マス」です。
「広いから難しい」「狭いから簡単」といった差はありません。
なぜなら将棋は9×9マスのすべてに駒を何度も繰り返し指すのに比べ、囲碁は19×19路のすべてに石を打たないからです。
囲碁は「地(空間)」をどれだけ囲ったのかによって勝敗を決めるため、将棋のマスと違って「使わない交点」が地の目数だけ存在します。
入門・初心者の方にはこの「地(空間)」を囲う感覚というのが、少々理解しづらいのではないでしょうか?
一方、将棋の勝敗を決めるルールは至ってシンプルです。
将棋は「相手の王将を詰むと勝ち」になり、そのために手駒を動かしていきます。
「詰む」とは、すなわち「王将の逃げ場をなくして追い詰める」ことです。
ほとんど「取る」と同義語であるため、「相手の王将を取れば勝ち」という認識で間違いありません。
さらに将棋は「初期配置」「駒の動かし方」さえ覚えてしまえば、誰にでもすぐに打つことができます。
囲碁では「石を囲んで取る」というルールを駆使しながら、どのようにして「地(空間)を取るのか」といったことを自由に競います。
※詳しくはこちらをご覧ください。
この「自由」というのが非常に厄介であり、どこにどう打っていけば良いのか始めのうちは見当も付きません。
最初の方は「隅」から打ち始めて、定石を手掛かりに形を作っていきます。
ある程度の「目安」となる打ち方はありますが、あくまでも目安であって「正解」ではありません。
初期配置と駒の動きが決まっている将棋は「定跡」手順を辿りやすく局面の再現性が高いと言えるでしょう。
つまり序盤に限れば、最先端の研究を活かした「正解」手順に導きやすいのです。
そういったことを踏まえると「取っ掛かり」としては将棋の方が囲碁よりも「簡単」かもしれません。
しかし「上達」にフォーカスするなら囲碁の方がはるかに「簡単」です。
なぜなら「自由過ぎてよく分からない」ため、少しでもコツを掴むと周りから抜きんでることができるからです。
「囲碁」の上達は「自転車」の乗り方を覚えるようなものです。
感覚が掴めないとどうしようもありませんが、感覚さえ掴んでしまえばスムーズに乗りこなせるようになります。
「将棋」の上達はどちらかというと「マラソン」を走るようなものです。
走ること自体は簡単でも周りの人間を追い抜くためには「努力の積み上げ」が欠かせません。
走れば走るほど前に進むことができますが、ひたすらコンスタントに走り続けなければ成果を得るのは難しいでしょう。
「囲碁」の上達はそもそも「まっすぐ走れているのか?」という視点ですから、方向感覚を養っていくことで成果を得やすくなっています。
もちろん囲碁で「初段」になるのは「ロードレース」に出るようなものですから、普段からの地道な積み上げは必要不可欠です。
将棋が「入門・初心者」「初級者」にやさしいゲームであるなら、囲碁は「中級者」「上級者」にやさしいゲームなのです。
どちらも「初段」の壁を越えようと思ったら、並大抵の努力ではいけません。
競技を「好き」になることで「努力を苦としない」のであれば、誰にでも初段になるチャンスはあります。
向き・不向き
囲碁の読みと将棋の読みでは性質がまるで異なります。
宝探しに例えてみましょう。
地中深くに埋まった宝箱を見つけるとします。
「囲碁」の場合は半径100メートル、深さ1メートルの範囲内での捜索になります。
「将棋」の場合は半径10メートル、深さ10メートルの範囲内での捜索になります。
囲碁はそもそも「どこを掘ったらよいのか?」という見当が付きません。
その代りに読む「場所」が明確になれば、そこから掘り下げていくのは容易いのです。
対して将棋は、囲碁に比べて読む場所の見当を付けやすくなっています。
ところがそこから掘り下げるのは容易ではありません。
深さ10メートルのところまで掘り下げれば良いと分かっていても、岩盤が固くなかなか掘り進めないのです。
囲碁には「探知機」のようなものが必要ですし、将棋には「掘削機」のようなものがそれぞれ必要でしょう。
人間の頭の働きに置き換えるなら探知機の代わりに「右脳」、掘削機の代わりに「左脳」をフル回転させて最善の一手を追求します。
右脳を駆使する囲碁は「気づき」を得るたびに上達することができます。
碁盤を暗中模索で進んでいては、いつまで経っても光明が差してきません。
気づきによって暗闇に目が慣れ、視界が開けてくることで正しい道を歩めるのです。
左脳を駆使する将棋は「鍛錬」を積むたびに上達することができます。
将棋の場合、盤上の視界はすでに開けています。
しかし目の前が雑草や草木に覆われた「けもの道」となっているので、前進すること自体が容易ではありません。
一歩間違えて足を踏み外してしまうと、あっという間に崖から転げ落ちてしまいます。
そのため将棋では確かな一歩を得るために日ごろから努力を怠ってはいけません。
囲碁が新天地を目指して大海原を航海するゲームであるなら、将棋はトレジャーハントのために海中深くに潜るゲームであると言えるでしょう。
人生に例えるなら「職業選択は自由」に決められる立場の人と「家業を継ぐ」ことが決まっている立場の人といったところです。
もしあなたならどちらの人生を選びますか?
・人生の分岐点が多すぎて決められない、もしくは選択ミスをしてしまう可能性が高い
・これからの人生やることは決まっている、ただし道を極めるような厳しさがある
決まりきった人生に嫌気がさすのは自分自身の判断によって自由に決められないからです。
しかし何も決まっていない白紙の人生を歩むのも多大なストレスがかかります。
すべてを自分で考えて組み立てて、形にしていかなければならないのは「自営業」を生業とするようなものです。
世の中には囲碁を嗜む「社長」がいっぱいいますが、彼らは1から組み立てていく囲碁の本質が性に合っているのではないでしょうか。
将棋はどちらかと言えば「会社員(上司)」といったところでしょう。
「初期配置や役職の決まっている手駒をどう活かしていくのか?」経営手腕が問われますが、決してすべてを1から組み立てるわけではありません。
それゆえに駒たちの性質をよく理解して「適材適所」に動かしていくことが必要不可欠になります。
どちらも難しさの性質が異なるので、人によって「向き・不向き」があるのではないでしょうか。
進化を遂げるために
囲碁の上達法で代表的なものは以下の通りになります。
・実戦対局
・詰碁
・棋譜並べ
・棋書を読む
一番効果的なのは「実戦対局」に他なりません。
自分なりに最善を尽くして、その上で勝ち負けがはっきりすれば「最適解」を得やすくなります。
答えが決まっているという点では「詰碁」もかなり有効な勉強法です。
「棋譜並べ」は基本的にプロ棋士の打ち碁を並べるため、「正解に近い」打ち方を学ぶことができます。
「棋書を読む」のは他人の考え方を取り入れるためです。
自分1人だけで囲碁というゲームを検証しきるのは不可能ですから、様々な体験から得た知識を学ぶことは合理的かつ効率的でしょう。
すべての上達法に通じることは「答えを模索する」という姿勢です。
人間が正解に辿り着くのはあと何百年費やしても限りなく不可能ではありますが、それでも答えを求め続けることではるかな高みへ到達します。
答えの出ないゲームにおいて「勝ち負け」を競って最善を模索するのは、この上なく面白い「遊び」と言えます。
「囲碁は神様の作った遊び(暇つぶし)」と言われるのも納得できます。
将棋の上達法で代表的なものは以下の通りになります。
・実戦対局
・詰将棋
・棋譜並べ
・棋書を読む
上達するための勉強方法は囲碁と何ら変わりありません。
「答え」を求めて、ただひたすら最善を追求していくためのヒントを得るのです。
「将棋は人間が作った最高のゲーム」と言われています。
将棋で正解を得たときの達成感は「数学で解を求めた」ときのそれに似ています。
「腑に落ちる」あるいは「すっきりする」といった感覚です。
一方、囲碁では「納得する」という言葉が一番的を射ているのではないでしょうか。
囲碁の別称を「手談」と言います。
囲碁では石同士のぶつかり合い(話し合い)の末、お互いの妥協点を見つけ出して折り合いをつけることが多いのです。
双方の主張を尊重するような形での「ワカレ」になることもあれば、話し合いが決裂して全面戦争になることもあります。
将棋が「数学的な」解答を持っているのだとすれば、囲碁は「社会的な」解決策を持っているのかもしれません。
どちらも極められるものではありませんが、「完成されたもの」を求めずにはいられません。
人間には「問題を解決したい」という潜在的な欲求があります。
これまでの進化の過程において、人類は生き残るために様々な問題を解決してきました。
そうすることで、より高度な進化を遂げることができたわけです。
「真理の追求」と言い換えても良いかもしれません。
囲碁や将棋において「上達したい!」と願うことは真理の追求に他ならないのです。
生き残るために進化するのも、勝ち負けのために上達するのも本質的には同じことでしょう。
将棋は敵将の殺し合い、囲碁は土地の奪い合いです。
まさに人類史の過去を辿るようなこれらのやり取りを「盤上に移した」ところに妙味があります。
囲碁も将棋も等しく優れたゲームであることに疑いの余地はありません。
「2つのゲームのうち、どちらが性に合っているのか?」それは人それぞれでしょう。
あなたの求めるゲーム性はどちらにあるのか、ぜひよく遊び比べてみてください。