「囲碁における戦術・戦略とは何か?」について考察していきます。

囲碁における戦術・戦略

布石と定石

「布石」とは全局を見渡しながら「戦略」を組み立てていくことを意味しています。

「定石」とは部分的な「戦術」を駆使しながら双方最善のワカレを目指しています。

どちらも大切なことには違いありません。

しかしどちらを重視するかで、一局の組み立てや打ち方が大きく変わります。

「三連星」「中国流」「小林流」「小目のシマリ」など名前の付いた「布石」での打ち方は大抵決まっています。

三連星なら「三々」を中心とした打ち方になり、他の布石も「カカリ」からひと段落するまでおおよそ決まった打ち方になります。

一方で「定石」を語るときは「千変万化」という言葉がふさわしいでしょう。

定石といえば「雪崩定石」「大斜定石」「村正の妖刀」などの難解定石を始め、「ツケ引き定石」「ツケノビ定石」「三々定石」など簡明なものまであります。

星や小目、高目や目外しといった「単独の隅」にカカリを打つことで定石が生じます。

他の隅や辺と関係なく、あくまでも部分的なやり取りを「定石」としています。

一方、名前の付いた布石の場合はすでに「ハサミ」で待ち構えています。

三連星や中国流、あるいは小林流は「五間ビラキ(三間バサミ)」が待ち構えていますし、「小目のシマリ」もシマリを意識しながらもう一隅を打ち進めます。

一隅だけではなく、他の隅や辺と連携して打つことを「布石」と呼んでいるのです。

「布石の中に定石がある」というのが一般的な見方ですが、布石と定石は分けて考えるべきでしょう。

布石の戦略によって定石選択が決まってしまうのでは、千変万化の定石を活かしきれていません。

要するに全局に「忖度」してしまい、部分的なことに注力できないのです。

部分的な定石変化によって布石の組み立てが決まるケースも多くあります。

特に「大型定石」の場合は碁盤の4分の1を使うほどの変化になりますから、部分が全局の流れを決定づけます。

全局を重視した「布石」を展開するのか、それとも部分を重視した「定石」にこだわるのか?

すべてが決まるのは黒の5手目次第でしょう。

二連星なら5手目に「三連星」にするのか、「カカリ」を打つのかによって変わってきます。

黒のカカリに白が受けて、三間ビラキにすると「二連星の布石」になります。

つまり「5間ビラキ(三間バサミ)」で隅と辺が連動してくると、全局を組み立てる布石となるのです。

今のは白の「星」に外側からカカリを打つ想定でしたが、白が小目だったり内側からカカリを打つと部分的な「定石変化」になります。

黒の5手目、あるいは7手目が自陣のシマリ、または辺への展開に向かうかどうかが焦点になっています。

敵陣へのカカリから部分的な折衝が始まると「局地戦の碁」へと発展していくでしょう。

「カカリ」は大抵「後手」になりますから、一隅がひと段落したのち白が先手を取って今度は黒の隅へ向かうことになります。

そうなるともはや全体の連携を取ることが難しくなり、部分の良し悪しによって盤上全体の形勢が決まります。

「布石」を敷くのか、それとも「定石」を打っていくのか?

よくよく考えながら、序盤を組み立てなくてはいけません。

形勢判断と読み

中盤以降は戦いになるので「戦術」が大事だと考える方が多いでしょう。

しかしあくまでも「形勢判断」によって戦うかどうかを判断します。

「金持ち喧嘩せず」のことわざ通り、優勢であるなら無理に戦う必要はありません。

中盤における「戦略」とは「捨て石」を含めた変化であり、多少の地を譲っても構わないという態度になります。

基本的に戦略とは余裕のある方が立てます。

序盤なら先番である黒が全局の戦略を立てるのが順当でしょう。

置き碁~互先まで、後手番の白は「戦術」によって黒の戦略を打ち崩していくしかありません。

中盤においては「優勢」である方が戦略を組み立てる権利を持っており、「劣勢」の方は戦術によって活路を切り開いていくのです。

戦略とは「方針」ですからそれほど多くの変化があるわけではなく、むしろ「一貫性」が求められます。

一方、戦術とは「具体的な打ち方」ですからダメヅマリや死活の関係でいくらでも変化の余地があります。

戦略を戦術によって崩されないためには部分にこだわらず、また大局を見失わないことです。

もちろん妥協ばかりしていては形勢を損じてしまうので、「多少」相手の言い分を受け入れる姿勢で臨まなくてはなりません。

級位者・有段者のどちらも「戦術」にこだわり過ぎている傾向があります。

もしくは「部分にこだわる」しかない状況に追い込まれたりしています。

むやみに切った張ったばかりしていても、全体の戦略がないと決して安定した形勢を得ることができません。

部分は崩れない、崩されない程度に見ておけばよいのです。

一度優勢になってもすぐに優位を手放してしまうことが少なくありません。

戦略を組み立てて優勢を維持するのに必要なのは「形勢判断」です。

今「勝っているのか」それとも「負けているのか」といった指標は一局を打ち進めていく上で値千金の情報になります。

形勢判断が甘いとむやみに戦うか、あるいは「負けているのに何もしない」ことになってしまいます。

よく指導碁でありがちなのは、終局間際になって突然「もがき」始めることです。

もう黒石が死んでいたり、または改めて入ってきたりと「もう終わっている」ところを必死に打ってきます。

要するに終局直前になってようやく「勝ち負けの判断」が付いて何とかしようというわけです。

とっくの昔に「投了」の判断ができないようでは、戦略を組み立てることなど夢のまた夢でしょう。

途中で「負けました」と言えるようになって初めて「有段者」と言っても過言ではありません。

終局目前になってから投げるのは「上級者」であり、最後まで打ち続けるのは「中級者」以下です。

結局のところ、勝ち負けの判断がはっきりしないため「部分的なこと」でしか盤面を捉えることができません。

そのため「捨て石」できるはずもなく、「布石」を組み立てることもままなりません。

形勢判断できない、戦略を組み立てられないのは圧倒的に「読み不足」だからです。

「読み」とは戦術における最も大切な要素であり、部分を打ちきるには必要不可欠になります。

読みさえしっかりしていれば、全体を見ながら打つ余裕も出てくるというものです。

序盤なら「定石を覚える」ことで部分的なことへの不安を払拭して、上手く布石を打ち進めることができます。

戦略を支えているのは「戦術」であり、また安定した成果を得るには「戦略」が欠かせません。

盤上でのアプローチは一見別々のように感じますが、表裏一体でどちらも切り離せないのです。

上達と勝ち負け

よく「上達するには簡単な詰碁をどんどん解きましょう!」と言われています。

しかし「勝つため」には難しい詰碁にチャレンジするほうがよいでしょう。

なぜなら部分的な打ち方である「戦術」こそ、勝敗を分ける決め手になるからです。

難しい詰碁を解くことによって、勝負所で相手を上回ることができます。

一局のうちに勝敗を分けるほど重要な死活など、そう何度も出てくるものではありません。

とはいえ切った張ったと戦っていれば、必ず1回以上は勝敗に関わる死活が出てきます。

そのとき深い読みができるかどうかによって、一局の勝敗が決まるのです。

ただし「上達する」のに難しい詰碁を解く必要はありません。

上達するためには「大局観」を身につけることが何よりも近道になります。

大局観とは「戦略」を組み立てる上で欠かせないものであり、囲碁における「明るさ」でもあります。

視野が広くなればなるほど、上達しやすくなると言ってもよいでしょう。

視野を広く保つためには部分的な「凡ミス」を極力減らす必要があります。

だからこそ「上達するには簡単な詰碁をどんどん解きましょう!」というアドバイスにもつながるのです。

この「簡単な」という枕詞は当然ながら棋力によって変わります。

5級の方にとって「難しい詰碁」は初段の方にとっては「簡単な詰碁」になります。

5級の方が初段を目指すのであれば、どうあれ「難しい詰碁」にチャレンジしなくてはなりません。

ただ上達のプロセスとしては5級の方にとって簡単な「10級の詰碁」をひたすら解いて凡ミスを減らしていくほうが得策でしょう。

初段クラスになると「10級の詰碁」を間違えるのは致命的な失着になりかねません。

足元が揺らいでは大きく羽ばたくこともままならないので、凡ミスを減らすように努力していくことです。

上達のプロセスは次のようになります。

・5級のときに簡単な(10級の)詰碁を解く

・凡ミスが減って全体を見る余裕ができる

・戦略性が高まって上達する

・3,4級になったら簡単な詰碁のレベルが上がる

・初段になる頃には簡単な(5級)の詰碁をスラスラ解けるようになる

このように足元を固めつつ、徐々に積み上げていくのが「王道」の上達法です。

しかし「勝ち」にこだわりたいときは話が変わってきます。

大会等で勝ちを目指すためのプロセスは以下の手順になります。

・5級の棋力なら難しい(初段の)詰碁にチャレンジする

・たとえ凡ミスをして形勢を損じても取り返すだけの逆転力が身に付く

・勝負所での決定力の差によって勝利する

・そのうち難しい詰碁が易しく感じるようになる

・気づいたら視野が自然と広がって上達している

このように勝ちにこだわって多少背伸びして勉強していても上達することができます。

私の場合はこのパターンでアマ六段まで上達しました。

ただ1つ言えることは、勝ちにこだわるのは上達するうえで「スマートではなかったな」ということです。

勝敗としては大会等で勝つことが多かったのですが、いかんせん上達のスピードが遅かったようにも感じています。

指導碁をしていても「視野が狭いけど、強い」という人は上達が遅い傾向があります。

どちらかというと「目の前の勝ち負けよりも、一局の良し悪し」に目が向いているほうが上達しやすいでしょう。

いずれにしても「やっていけば上達する」ことには変わりありません。

勝ち負けは「モチベーション」に大きく関わり、継続するために欠かせない要素になります。

そこそこ勝ちながら、徐々に視野を広げて上達するためには「食わず嫌い」をなくして何でも取り組んでみることが大切でしょう。

「戦略」を高めて上達するには解説を見ながら「棋譜並べ」するのが効果的です。

「戦術」を高めて勝つためには様々な「詰碁」に取り組むことです。

序盤なら勝つために「定石」の勉強をして、上達するために「布石」の勉強をするといった感じです。

中盤戦は勝つために「手筋」「死活」を勉強して、上達するために「形勢判断」「目算」を勉強します。

勝つために必要なのは「戦術」であり、上達するために必要なのは「戦略」です。

あなたが初段、もしくは高段者になる頃には相応の「戦略」と「戦術」が身に付いているはずです。

どちらからアプローチするにせよ、継続していけば自ずと道が切り開かれていくことでしょう。