
「棋譜並べを実践することで得られる効果」について考察していきます。
自由に鑑賞する
囲碁における棋譜並べは「芸術鑑賞」に相当します。
実際に着手の意味がわからずとも感銘を受けることがあれば、それはもう立派に作品を感じ取れている証になります。
棋譜を並べるなら「古碁」や「日本の棋士」の碁を参考にするとよいでしょう。
確かに中・韓の棋士は強いですし、AlphaGoを始めとするAIの実力はもはや言わずもがなです。
しかし「気質」として、やはり日本人の碁がしっくりきます。
この感覚はちょうど「音楽」に似ているかもしれません。
洋楽やK-POPを好きな人もたくさんいるでしょうが、邦楽(J-POP)がより多くの日本人の肌に合っています。
また「今どきの歌」についていけない方も多いのではないでしょうか?
人間は加齢に伴い、新しいことを受け入れることができなくなります。
それなら「古碁」の鑑賞をお勧めします。
江戸時代~昭和に至るまでのクラシックな碁は並べていて落ち着きます。
30年間に及ぶ平成のモダンな碁を並べてみるのも一興かもしれません。
とにかく「自分に合った碁」を見つけて、コツコツ並べてみることです。
ちなみにAIの碁は「VOCALOID(ボーカロイド)」といったところでしょうか?
時代の変遷に合わせるようにして「囲碁」も「音楽」もテンポが速くなっています。
特に中・韓が台頭してきてから「足早」に打つのが当たり前になってきました。
昭和初期に「コミ」が導入され、後に「5目半」になった当時は「星」打ちを始め足早になるのも理に適っています。
ところが「6目半」になった直近の20年間で碁のスピードは瞬く間に速くなってしまいました。
「隅のシマリ」を打たずに「辺にヒラキ」を打つ「中国流」や「ミニ中国流」が全盛を極め、最近では「カカリを省いて」即座に「三々入り」するようになりました。
はっきり言って、「良し悪し」としてはこの上なく「微妙」と言わざるを得ないでしょう。
将棋の世界では「最善」が常に更新されていて、江戸時代よりも現代の棋士たちの方が「確実に」強いのです。
囲碁の世界では「最善」を検証しきれません。
布石~中盤にかけて可能性が広すぎるので、勝ち負けは個人の力量に委ねられます。
今流行りの「三々入り」も所詮は「流行」過ぎません。
プロ棋士やトップアマは流行について行かなくては勝てない事情もあるでしょう。
しかしアマチュアは無理せずに「好み」の打ち方を選べばよいのです。
今流行りの音楽が「昭和の名曲」に勝っているとは到底考えられません。
同じように「昭和の名局」が今どきの「流行形」に劣っているとは思えません。
「勝ち負け」においては個人の力量、すなわち「読みの力」に委ねられています。
だからこそ「打ち方」は自由であり、「好み」を大事にすることが何よりなのです。
視野を広げる
ただ鑑賞するだけでは物足りないという方は「読み」を入れてじっくり考えてみてはいかがでしょうか?
内容を100パーセント理解する必要はありませんし、そんなことは到底できないでしょう。
盤面に現れる変化は数多くの「ボツ」にされた案の1つでしかありません。
プロ棋士の思考の中に眠る「見えない変化」まで追及していては、いつまで経っても並べ切らないでしょう。
1局を並べるのにかける時間はせいぜい「2時間」程度です。
半目勝負の碁を最終手まで並べると途方もない時間がかかります。
棋譜並べは「100手~150手まで」と決めておきましょう。
中終盤に関しては「棋譜並べ」よりも「実戦」を積むほうが効率よく学べます。
コウ絡みの「250手~300手まで」の棋譜なんて並べていたら、好きな棋士の碁でも嫌になってしまいます。
並べて一番楽しいのはやっぱり「布石」でしょう。
「30手~80手まで」くらいを目安に何局も並べてみるのが、棋譜並べを好きになるコツです。
布石だったら「まあ、こういうものか」と納得しやすいので、頭にもすっと入ってきます。
囲碁において最大の障壁となるのが「先入観」です。
「ここはこう打つものだ」とか「習った通りに打とう」などの凝り固まった考え方では、一向に視界が開けてきません。
そのため囲碁を打つ者にとっての最高の褒め言葉とは「明るい」なのです。
「明るい」という言葉は「発想」「着想」「構想」などの言葉に掛かっています。
すなわち「想像性」が豊かであり、柔軟な思考を持っているという意味になります。
「明るい」に対して適切な反対語はありませんが、「やり口」が決まっている人には「〇〇流」を付けることが多いでしょう。
「宇宙流」「秀策流」のように名前を聞くだけでどういう碁なのか想像がつきます。
江戸時代の名手なら秀策の兄弟子の「秀和」が明るい打ち方で有名です。
何も「明るいほうが良い」というわけではありません。
「自分の型」があることは勝負においての強みになります。
しかしある程度いろんな打ち方を試してみてからでも「型」を決めるのは遅くないでしょう。
私の場合は完全に「自己流」ですが、古碁や現代の碁を一通りは把握しています。
並べていて最も感銘を受けたのは「藤沢秀行」先生の碁です。
「簡明」かつ「明るい」棋風は級位者の方にも並べやすいと思います。
勝負の世界で「簡明」に打つというのは想像を絶するくらい難しいものです。
その上で数多くのタイトルを取っているのは、歴代の棋士と比較しても称賛に値します。
囲碁というゲームを難しくこねくり回すのは簡単なことです。
勝負においては「型」を決めて、より「複雑」にしたほうが勝ちやすいのです。
柔軟で明るい着想でもって、さらに簡明に打つとなると相当のセンスを要求されます。
あるいは「実力差」が顕著であるなら、上手のセンスを最大限に活かすこともできるでしょう。
互先でセンスの良さを発揮したいのであれば、いろんな碁に触れてみるしかありません。
棋譜並べでも好き嫌いせず、なるべく数多くの偉人の碁を並べてみてください。
そうすることで「ワンパターンな」打ち方から「多彩な」打ち方へと変貌できることでしょう。
上達に活かすには?
よく上達するには「対局」「詰碁」「棋譜並べ」と言われます。
確かにその通りなのですが、効果の表れるタイミングがそれぞれ違います。
即効性が一番高いのは「詰碁」でしょう。
なぜなら詰碁は「勝負」と直結していますから、同じ形が出て来なくても何かしら読みに好影響を与えています。
次に「対局」することが効果的になります。
対局とは「総合力」を身につける上で絶対に欠かせません。
スポーツに例えるなら、詰碁は「筋トレ」対局は「試合」に相当します。
「筋トレ」の効果はスポーツ経験者なら言わずもがな理解できるでしょう。
また競技を上手くなるのに「試合」を欠かすことはできません。
それでは、「棋譜並べ」はスポーツに例えるとどういった位置づけになるのでしょうか?
「棋譜並べ」とはスポーツにおける「試合観戦」に相当します。
「試合観戦」によって、競技レベルは向上しますか?
答えは「イエス」です。
どんな競技の一流選手も「観戦」と「研究」を怠ることはありません。
他人の技を「盗む」ことはどんな世界においても必要不可欠なことです。
ただし、即効性という点ではまったく効果を感じることはできません。
棋譜並べを上達に活かしたいなら「年単位」で積み重ねていくしかないでしょう。
「囲碁将棋チャンネル」を観たり、「NHK杯」を観るのも十分勉強になります。
しかしあなたの関心のある碁を任意で並べたいなら、やはりあなた自身の手で碁盤に並べるほかありません。
「観戦」するのと「棋譜を並べる」のでは、得られる効果にも大きく差が出てきます。
「棋譜並べ」はいわば「真似」ですから、実践しているのと何ら遜色がありません。
「観戦」しているのは「見ている」だけですから、記憶に残りづらいのがデメリットです。
真似しやすいという意味では、何もプロの碁にこだわる必要はありません。
あなたよりも「3子」上の碁を並べてみると非常に参考になります。
3子差なら碁の内容がまったく理解できないということはあり得ません。
3級であれば「初段の碁」
初段であれば「四段の碁」
四段であれば「七段の碁」
七段であれば「名人の碁」
このようにそれぞれの棋力より3つ上の碁を並べてみてください。
1つや2つ上の碁では「岡目八目」によって、上手の「粗」が目立ってしまいます。
4つ以上になると理解しづらくなってくるので、3つ上というのが絶妙な手合い差でしょう。
プロの棋譜を並べるときは「布石」を中心とした「わからない」領域を勉強します。
3子上手の棋譜を並べるときは「中盤」を中心とした「わかる」領域を勉強します。
「ヨセ」は本で勉強したり、実戦で学ぶ方が手っ取り早いでしょう。
なぜなら人によって「差」が出ることが少ないのが、答えの決まっている「ヨセ」だからです。
棋譜並べは「継続」してこそ将来的な効果を見込むことができます。
囲碁の強い人で「棋譜並べをしたことない」なんて方はほとんどいません。
もっと正確に言うなら「囲碁の好きな人」で棋譜並べをしたことない人はいません。
「好きこそ物の上手なれ」とはよく言ったものです。
強くなりたいから勉強するのではなく、「好きだから自然と勉強していた」というのが理想的な姿勢になります。
棋譜並べを勉強のためにやるのは、実はかなりの苦痛を伴います。
しかし好きな棋士の大一番の碁を並べるとき、自然と碁盤に意識がのめり込んでいるはずです。
そうやって「自然体」な姿勢で碁に向き合っていれば、上達など後からいくらでもついてきます。
決して無理せず、好きなときに好きな棋士の碁を並べましょう。
あるいは少し上の棋力の方を参考にしてみるとわかりやすいでしょう。
いずれ「趣味は棋譜並べです(キリッ)」と言えるようになるとカッコいいですね。
棋譜並べを通じて、少しでも囲碁の深淵に触れられるよう願っています。