「9路盤のすゝめ」として9路盤ついて考察していきます。

9路盤のすゝめ

狭いほど難しい

あなたは9路盤についてどのようなイメージをお持ちでしょうか?

囲碁を始めたばかりの入門のときには、必ずといってよいほど9路盤から入ります。

なぜなら最初から公式の19路盤を使うのはあまりにも広すぎて、どこに打ったらよいのか見当も付かないからです。

故に9路盤は入門~初心者の碁盤として活躍し、初級者になる頃には13路盤に移行して徐々に19路盤へと近づいていきます。

そういう経緯を考えるとついつい9路盤が「狭くて簡単な盤」という認識になってしまいますが、実はとんでもない誤解です。

9路盤こそ最も「技術」を要する盤であり、棋力差が顕著に表れる盤でもあります。

囲碁における「心・技・体」のすべての要素を必要とするのは19路盤だけでしょう。

長丁場を戦い抜くには「体力」が欠かせませんし、揺れ動く形勢に動じない「気持ち」も大切になります。

13路盤になると「体力」はあまり必要ではなく、「技術」と形勢の変化に対する「気持ち」だけ持っていればよいでしょう。

9路盤になるとほとんど「技術」のみで勝敗が決まります。

盤が狭いため「短期決戦」でいったん形勢が傾いたら逆転は困難になります。

布石がないためすぐに「中終盤」になり、「石を取る」のと「地を囲う」テクニックを最大限にフル活用しなくてはいけません。

囲碁は「わからない部分」が多いからこそ、趣のあるゲームとして愛されています。

しかし「正解」となり得る形が決まってくると一気に「厳しい世界」になってしまいます。

これは「将棋」にも当てはまることです。

正規の9×9の81マス盤ではなく、「5五将棋」や「9マス将棋」あるいは3×4マスの「どうぶつしょうぎ」になるとゲーム性が一変します。

狭くするほど「詰将棋」の世界に近くなり、その分だけ遊びがなくなります。

囲碁においても「詰碁」のような隅や辺に限定された形ほど「難しい」と感じるはずです。

張栩九段の「よんろのご」などその最たるものです。

プロ棋士でも解くのが難しい詰碁の世界が「四路盤」の中に集約されています。

もちろん簡単な問題も用意されていますが、難しくしようと思えばいくらでも難解にできるということでしょう。

とにかく「正解」「不正解」が明瞭になってくるほど、正しい道筋を辿らなくてはいけませんから「難しく」感じるのです。

9路盤を「入門・初心者用の碁盤」と捉えるのは考え直した方がよいでしょう。

トライ&エラー

囲碁の良いところは「難しい」競技ではなく、「難しくできる」競技であることです。

やろうと思えば、簡明に勝負を終わらせることもできます。

そういう選択肢の多いところこそ、誰でも親しめる競技としての長所になります。

とはいえ、勝ちを目指す以上は「簡単に」負けてしまっては元も子もないでしょう。

「簡明に」勝つために必要なことは「目算」することに他なりません。

9路盤で「5目」勝てそうなら局面を簡明にして収束を目指します。

逆に「5目」負けそうなら局面を複雑にして勝負を長引かせます。

19路盤で真面目に目算している方はほとんどいないと思いますが、9路盤であれば誰でも数えることくらいはできるでしょう。

細かい変化を読み切ることはできなくても「勝てそう」とか「負けそう」くらいはわかるはずです。

そうやって真剣に打てば打つほど、9路盤は面白味を増していきます。

普段の対局では「何となく良い感じ」「嫌な感じ」としか体感できないことが、9路の盤上では如実に表れます。

19路盤のような広い碁盤では、部分的な良し悪しを「勝敗」と結び付けるのが極めて困難です。

「序盤のあの手がどうのこうの」といった反省は、もはや感想戦でしかありません。

それに比べて9路盤では一局ごとに「トライ&エラー」を繰り返すことができます。

「何が良くて、何が悪かったのか?」というポイントが1カ所か2か所くらいしか出てきません。

反省点を次局ですぐに検証することもたやすいでしょう。

短時間で勝負が決まるのでサイクルが早く、また狭い分だけ「同一局面」に導きやすくなっています。

それを競技として「物足りなく」感じるのか、それとも「追求しやすい」と捉えるのかは人によるのかもしれません。

そんな9路盤の対局が盛んに行われているのは「囲碁クエスト」です。

スマホのアプリにも対応しているので、電車の中でも対戦することができます。

やってみるとわかりますが、とても「入門~初心者」のような雰囲気はなく「有段者」が数多く打っています。

レーティングシステムなので、基本的に棋力(段級位)はアテになりません。

とにかく真剣に「勝ち」を目指せば目指すほど、9路盤の奥深さに気づかされることでしょう。

始めのうちはレーティングも段級位も一番下からスタートするので、勝ち上がることはそう難しくありません。

しかし昇段・昇級が止まってしまうと、そこから勝ち上がるには並々ならぬエネルギーを要します。

そこで飽きてやめてしまうか、または「検証」を繰り返していくかによって将来的な到達地点が変わってきます。

はっきり言って狭い碁盤で「遊び」もなく、勝敗がすぐに決まってしまうのは辛い限りでしょう。

「勝てば官軍、負ければ賊軍」といったように結果に囚われてしまいます。

しかし決して見誤ってはいけません。

大事なのは「結果」ではなく、そこに至る「過程」なのです。

上達するためには、なるべく上手い人の真似をすることが近道となります。

つまり、あなたを負かした相手の着手を堂々と「真似」すればよいのです。

「初手天元」に打たれて負けたのであれば、次に黒番を持ったら「初手天元」に打ちましょう。

勝てば良し、また「初手天元」を繰り返します。

もし負けたら次は「なぜ負けたのか?」を検証して、また相手の着手を真似します。

すなわち今度「初手天元」に打たれたときの対策にすればよいのです。

このような「真似と検証」を繰り返していくことで、最善につながる道筋を辿ることができるかもしれません。

勝利へのメカニズム

石の接触における「手筋」「死活」も当然ながら重要ですが、やはり一番大切なのは「目算」です。

囲碁は「戦わずして勝つ」ことを理想としており、「石を取らせて勝つ」ようなことができれば一人前と言ってよいでしょう。

囲碁は「石を取る」1手前の「アタリ」から始まり、最後は「地を囲う」ことで「空間」を得ます。

順番としては

「アタリ(石)」→「切り・ツギ」→「手筋・形」→「死活」→「空間(地)」

となっています。

アタリを駆使して石を取る、そのためには切らなくては始まりません。

石を切ると「手筋」が生じて、石をツグと「形」になります。

より大きい視点で「アタリ」とは「死活」のことでもあります。

「死に」は最終的にアタリの形であり、「生き」は最終的にアタリになりません。

そうやってできた「空間(地)」を争うわけですが、必ずしも「死活(石)」を制することが「空間(地)」を制することではありません。

「石」を犠牲にしてより多くの「地」を取れるか否かによって、碁の性質を真に理解しているのかどうか判断できます。

簡単に分けると

「石に関わること」

・アタリ(ダメヅマリ)

・手筋(シチョウ・ゲタ・両アタリなど)

・死活(打ち欠き・中手)

「地に関わること」

・形(好形・愚形)

・二眼(生き)

・空間(入れない場所)

このようになります。

最終的な勝ち負けにつながる順番に並べるなら

空間>死活(二眼)>手筋(形)>アタリ

優先順位はこうなります。

つまり「石を取る(アタリ)」ことよりも「地を囲う(空間)」ほうが勝ちにつながりやすいということです。

よって「目算」をしっかりすることで「読み」に勝る成果を上げることができます。

9路盤のような狭い盤では「読み」こそすべてと考えがちですが、実はそうではありません。

「1目」の価値が19路盤とはえらい違いになるため、1目1目を大切にしなくてはならないのです。

ちなみに9路盤におけるコミは19路盤と同じく「6目半」になっています。

これは「6目半」の価値が19路盤に比べて大きいのと同じくらい「先手」の価値も大きいからです。

1目1目の価値もさることながら、1手1手の価値もまた19路盤とは比較になりません。

9路盤で「読み」と「目算」をちゃんとする癖を付けてしまえば、19路盤での接近戦やヨセが得意になるでしょう。

入門~初心者の過程を経て、早々に19路盤へと移った方は戦いに弱い傾向があります。

布石はまだしも石のぶつかる中盤戦では、どのような石運びをしたら良いのかよく分かっていません。

石がぶつかったときの変化など「有限」であり、ある程度は決まりきっています。

すなわち石が切れると「手筋」になり、石がつながると「形」になります。

石が封鎖されると「死活」になり、石が生きると「地」になります。

割と単純なサイクルなので、石がぶつかっても怖がる必要はまったくありません。

ただし「捨てる」選択肢を選べないようでは、石の形を整えるのに四苦八苦するかもしれません。

「石を取る」ことから学ぶ囲碁において、「石を捨てる」のは並大抵のことではありません。

「石を捨てる」ことによる数多くの成功体験をしなくては、とても捨てる気になどなれないでしょう。

それなら「9路盤」で数多くの成功体験を積むことが有効になってくるのではないでしょうか。

9路盤であれば「捨て石」の効果がどう勝敗に直結するのかどうか一目瞭然です。

一局を打ち終えるサイクルも早いので、技術の習得にはもってこいでしょう。

19路盤は良くも悪くも終局まで打ちきるのに長くていけません。

19路盤では「総合力」が求められるので、1つの技術の習得には不向きなのです。

仮に「シチョウ」を覚えようとしても「シチョウ」によって勝ちに結びついたという成功体験がなければ、なかなか頭に落とし込むことはできません。

それに9路盤なら「技術」のみで勝敗が決するので、余計な「判断ミス」をすることも少なくなります。

「勝ち」を目指す上では「勝ちにつながる技術」の習得が必要不可欠でしょう。

実際に勝ちに結びつく「決まり手」になりさえすれば、技術の習得は難しいものではありません。

9路盤による「トライ&エラー」を繰り返すことで、基本的な技術を身につけやすいと確信しています。

そこから徐々に「13路」「19路」と歩みを進めていくことで、部分的な迷いを払しょくすることができるでしょう。

この機会に9路盤の価値を見直してみてください。

上手く活用することで、上達への確かな手助けとなることでしょう。