「第4回パンダネットレディース囲碁トーナメント準決勝」の棋譜解説をしていきます。

仲邑菫さんの棋譜を解説します!【一局目】

布石解説

仲邑菫さんの白番です。

黒5までは順当な立ち上がりです。

白6のカカリに黒7と素直に受けたのは、黒も白をすぐにどうこうする気はないと見えます。

白8のヒラキは好みが分かれるところですが、しっかり二間ビラキに開くと後に捨てる変化が打ちづらくなります。

高い三間ビラキ(星)も同様です。中央に高く打つよりも盤端寄りに打っておいたほうが、後に捨てやすくなり変化にも富んでいます。

黒9のツメに対して、黒10は予定の行動でしょう。

黒11の打ち込みに白12の下ツケは、渡りたいというより積極的に捨てに行っています。

白8の策動を残すのなら、白12では何もせずに三々入りに打つのが自然です。

黒19,23と白8の一子を取られたときに、三線の石は取られても価値が小さいため責任も軽いと考えます。

また白8のとき初めから白10のスベリ、三々入りも考えられますが、白8~12を捨て石にしたことによって右辺の黒地を凝り形にしている意味もあります。

黒23と白一子を取りきってくれたので、白24~30まで白は上辺で攻勢に出ることができました。

黒29の大ゲイマガカリには白32,34と左辺でもプレッシャーを与えます。

上辺の黒の二間ビラキ、そして左辺の黒の二間ビラキは安定しているがゆえ捨てることができません。

白の攻めに対して守ることを強いられるため、必ずしも二間ビラキで安定するのがよい手とは限りません。

黒35~39まで左辺の黒石が強くなれば、今度は左辺の白一子が心配になります。

ところが白40と下辺に展開しました。白は三線の石は捨ててもよいと考えて打っています。

もちろん必ずしも捨てるわけではありませんが、守らなくてはいけないという発想では打っていません。

黒41と左辺の白石を分断してくれば、白42の上ツケ~白50の抱えまであっさり左辺を捨てて下辺を盛り上げました。

囲碁は変化を楽しむ人ほど強くなり、変化を嫌う人ほど上達できないゲームです。

目まぐるしく変化する局面を楽しめるかどうか、むしろ変化の余地を残して打てるかどうか。

子どもほど変化に柔軟に対応できる感性を持っており、大人ほど変化することを嫌う傾向にあります。

囲碁はほかの分野(特にスポーツ)と違って、体の成長を待たずして大人と対等に戦うことができます。

純粋に感覚、感性が問われる世界において小さい子どもの躍進は決しておかしなことではありません。

黒51のカタツキは常識的な手です。

右下の黒模様の拡大と左下の白模様の縮小、黒がどちらを目指すのかは悩ましいところです。

しかし模様を広げるか、相手の模様を邪魔するかといえば、これまでの経験上では模様を邪魔したほうが勝ちやすいことが多いです。

最善手の選択は局面次第になりますが、心理的に守る手よりも攻め込む手のほうが打ちやすいでしょう。

下辺の白一子が黒模様と白模様の真ん中に位置していることも判断材料の一つになります。

黒模様のほうからカタツキを打つと白に真ん中をどんどん押されて囲い合いに負けるかもしれません。

諸々考えると、黒51と白模様を消すようにカタツキしたのは極めて常識的な一手です。

中盤解説

白56のツケは非常に才能を感じる一手です。

戦いの最中、手裏剣を持っているのは攻めの選択肢が広くて素晴らしい。

普通は捌くときに手裏剣を使いますが、この局面で白56のツケは打たれてみるとこの一手に見えます。

白56~66まで黒53の一子を取られたのは、黒の予定通りには見えません。

黒53と白模様に踏み込んだのに、白56と外(中央)から打たれて取り込まれています。

黒67と打って右下一帯の黒の地模様も素晴らしい景色ですが、左下一帯の白の確定地も見逃せません。

黒模様から黒の地模様となり、白模様から白の確定地となりました。

右下一帯がまるっと黒地になってしまってはいくらなんでも白は足りませんから、何かしら減らす手立てを考えなくてはいけません。

白68の三々ツケは一瞬びっくりする一手です。

ある程度の棋力があれば、周りが黒石だらけでとても白が生きられる状況でないことがわかります。

大ゲイマジマリに対する三々ツケは常とう手段ではありますが、通常はもっと早い段階で打つことを考えます。

この碁であれば、白40と打つ前に御用聞きで一つ打っておくのがタイミングでしょうか。

それ以降は戦いが忙しいので、打つ暇がありませんでした。

当然、白は右下隅で生きられるとは思っていません。

白68はいわば捌きの手裏剣であり、相手の動きに合わせて黒の地模様を突き崩すきっかけにしようとしています。

黒69~91まで部分的に白死の形です。もちろん二人ともこうなることはわかっています。

白78~82まで外側に争いの火種を残せたことが白の収穫です。

黒91と右下隅の白死を見届けた後、白92と割と堂々と火種の白石を動いてきました。

ちょっとホントかな?と疑いたくなるようなふてぶてしさです。

後の展開が白鮮やかすぎたので、黒93をこの碁の敗着としておきます。

黒93の意図は「白4子を動いても何もないでしょ?」ということです。

つまり「直接的に白4子の相手をする必要はない、下辺の黒石を補強して間接的に弱体化させれば十分だろう」という主張です。

下辺の黒石を補強するのに白一子の切り取りを選択したのも理由があります。

白92と模様の内側に打ったのに対して、黒93と模様の外側に打って白石を持ち込みにしてしまえという意味です。

黒地の中でいくら交互に打つ手を増やしたところで、お互いに損得はありません。

黒地の中でもがく白にお付き合いせずにそのまま取り込めるのが最も理想的な取り方です。

しかしここまでの主張はあくまでも黒の打ち方を解析したものであり、白の読み筋はもっと深いところにありました。

白94~96が白の読み筋です。黒97の守りが欠かせません。

黒97の守りを打たないと、序盤で死んでいたはずの白8,12がピカピカに活きてきます。

なるほど。打たれてみると黒からすれば絶叫したくなるほど、実は味の悪い黒模様でした。

黒97の守りが必要なため、白98と黒の二間トビの隙を突かれてしまいました。

このツケが飛んでくるとわかっていれば、黒93では何かしら中央に一手守ったはずです。

白98の一手で一気に中央と下辺の事情が怪しくなります。

黒107までとりあえず下辺の黒は安泰(のはず)です。

しかし白108とツガれると黒67の二間トビの一子が見る影もありません。

黒109と白石をまだ攻めているようですが、白116と反撃されると中央の黒石も弱いのです。

白120まで右下から続いている白石の一団が連絡しました。

黒121と後手で一手守りを打たなくてはいけないのが泣きっ面に蜂です。

さて、右下隅の白は取られましたが、もともと黒の大きな地模様だったのでこれだけ消せれば十分です。

ここからどうヨセていくのでしょうか?

終盤解説

次の一手は白122です。

ん?黒123の眼取りには白124と二子にしてアタリです。

おや?黒125の取りに白126,128とまくって取り跡を欠け眼にしてきました。

もしかして、下辺の黒石をまだ狙っているのでしょうか?

当然、右下隅の白石も眼が一つしかありません。

お互いに眼が一つしかありませんから、下辺の黒と右下の白の攻め合いになります。

黒としてはたまったものではありません。

単純に攻め合えば黒勝ちの攻め合いですが、黒は自陣に手を入れて白石を取り切らなければいけません。

いわゆる攻め取りというやつです。

黒93の時点で白石を何も手を入れずに持ち込みにしようとしていた黒の意図を思い出してください。

結局、白94~120までまんまと白に逃げられただけではなく、右下の白石にも死にがいを持たれてしまっています。

囲碁には生きがいなんて言葉はありません。囲碁で求めるものは死にがいです。

死んでいる石が役に立つか立たないかでは全局的にみて大違いです。

先ほど黒97と守らざるを得なかったのも、序盤の黒8,12の二子が見事に死にがいを発揮したからに他なりません。

仲邑菫さんのすごいところは死んだ石を活かす力です。

人生は一度きりで死んだらお終いですが、囲碁は死んだ石をいかに周りに貢献できるかが勝敗の分かれ目です。

黒129~133の反発は黒の意地です。

ここで突っ張らないとヨセで白のいいように言うことを聞かされてしまいます。

このあとコウ絡みの攻防で局面は複雑になりますが、どうやら読み合いは白が一つか二つ上のようでした。

まず白146で黒の仕掛けたコウに勝ちます。

黒145のコウ材が大したことないよ、と言っています。

そしてそのまま下辺の黒石と右下の白石の大きなコウ争いに持ち込みます。

憎いところが単純にコウを争うのではなく、コウを横目に白152~180までヨセを打っていることです。

黒はいつコウを仕掛けられるか神経を使うばかりですが、白はコウ材を作りながら悠々とヨセていきます。

白182~194で見紛うことなき本コウです。

もはや中盤の入り口で見えた右下一帯の黒の地模様は幻想となってはかなく消えてしまいました。

黒は右下の白石を取って当たり前なのに対して、白は死んでもともとの石を交渉材料として使えれば万々歳です。

結局、白198のコウ材にたまらず黒199とコウを解消しました。

左辺の黒地は崩壊必至でしょう。白200に黒201と左辺を支えれば、今度は中央が崩壊します。

白206手まで、白番仲邑菫さんの中押し勝ちです。

最後にまさか中央の黒が死んでしまうとは誰が予想できたでしょうか?

総評

この碁は仲邑菫さんの会心の好局となりました。

悪手の一つもなく、迷いの一つもない完全に力の差が出た一局と言えるでしょう。

囲碁においての力とは利き筋(手筋・死活)の読みです。

持ち時間も少ない中、正確に抜け目なく読んでいたと感心する内容でした。

パンダネットレディース囲碁トーナメントということで、女性アマとの対戦でしたが男性のトップアマにも十分通用するレベルでしょう。

囲碁界はプロアマ含めまだまだ男性優位の世界です。

しかし将棋界ほど男女で差があるわけではありません。

韓国では一般棋戦で名人を取った女流棋士がいますし、中国でもトップ棋士と同等に活躍する女流棋士もいます。

ぜひ仲邑菫さんには日本国内のタイトル、その先は世界タイトルを取って欲しいものです。

日本のみならず、女性棋士の活躍は世界にとっても明るいニュースになりますね。

これからも仲邑菫さんの活躍に期待を込めて皆さんに彼女の棋譜を解説していきます。