「第4回夢百合杯世界囲碁オープン戦予選仲邑菫初段vs王晨星五段」の棋譜解説をしていきます。

仲邑菫さんの棋譜を解説します!【五局目】

夢百合杯

仲邑菫初段、初の世界戦への挑戦です。

予選を勝ち抜き、本戦へ進めるのはわずか64名です。

今回の統合予選では「一般枠36」「女流枠4」「アマチュア枠4」の計44枠を争います。

また上記と別途「欧州北米枠」を合わせたオープン予選48名の他、

「前回優勝者」「準優勝者」「中国5名」「日本3名」「韓国3名」「台湾1名」「中国囲棋協会推薦者2名の招待選手」の計16名が本戦に出場します。

今回、仲邑菫初段は「女流枠4」に入るための予選を戦います。

正直、まだ国内棋戦で初勝利を挙げていない仲邑菫初段が国際棋戦で結果を残せるとは到底思えません。

当然のことですが、予選には全棋士が出場するわけではなく日本からは18名の棋士が予選に参加しています。

結果から申し上げると、残念ながら予選を勝ち抜いて本戦出場を果たした日本の棋士は「0名」でした。

仲邑菫初段も1回戦で敗退しています。

本戦に出場するのは「シード権」を確保している「日本3名」の棋士と「中国囲棋協会推薦者2名の招待選手」として選ばれた仲邑菫初段です。

何と予選敗退にもかかわらず、推薦枠での本戦出場を果たしています。

主催の中国棋院曰く「貴重な若い才能を開花させる手助けになれば」ということらしいです。

はっきり言って日本棋院に対する「お情け」のようなもので、話題づくりも甚だしいでしょう。

内容を見る限り「善戦した」とも思えませんし、今のまま中韓の棋士と戦っても若い芽を摘むことになりかねません。

とにかく「国内棋戦1勝目」を挙げることが先決であり、国際棋戦での活躍はまだまだ先の話になります。

布石解説

黒番仲邑菫初段、白番王晨星(ワン・チェンシン)五段のコミ6目半、中国ルールで行われています。

国際棋戦は開催国のルールで行われるものですが、コミ7目半である中国に合わせていないのは配慮が感じられます。

黒1,3の「星+小目」はいたって普通の構えです。

対して白2,4は少しだけ違和感を覚えます。

左下隅が星では黒5のカカリが見え見えであり、受けると「ミニ中国流」などの有力な布石を打たれます。

それなら白2では左上隅「星」、白4を左辺向きに左下隅「小目」としたほうがよいでしょう。

右辺は右下隅「小目」がカギとなっており、そこから模様を広げられないように左下隅の打ち方を工夫します。

実戦は白6のカカリ返しによって、下辺の「ミニ中国流」を防いでいます。

黒7の受けはやわらかい発想です。

仮に左下隅が下辺向きの「小目」なら、「喧嘩小目」からのカカリ合いになります。

その場合、下辺の価値が著しく高くなるので、挟んで戦うのがセオリーとなっています。

しかし左下隅が星であれば、三々が空いているため下辺の攻防にこだわる必要はありません。

白8は本来「ミニ中国流」の急所になりますが、黒9~17まで白に下辺をあっさり明け渡しています。

白8が左下隅の黒一子に対する「ハサミ」ではないので、白16,18と二手かけて補強します。

白16で断点をツグのは、黒17のあと黒16と押さえこまれるのが弱点になります。

どのみち二手かけるなら、白16,18に打つのがスマートというものです。

黒19のカカリはある意味、必然と言えます。

左下隅「黒のカカリ」右下隅「白のカカリ」左上隅「黒のカカリ」とお互い順番にカカッています。

黒19の小ゲイマガカリに白20のコスミは「位取り」のためには欠かせない一手でしょう。

ところが黒21のシマリに左上隅を連打しないようでは、そもそも白20の受けがよくありません。

白22と右下隅の黒二子に迫るより、左上隅の黒一子に迫るほうが「急場」です。

黒19のカカリ一本を「打ち得」にしてはいけません。

普通は「カカリ」と「ヒラキ」がセットですから、カカリ一本には何かしら攻めないと割りに合いません。

白22と右下隅に寄り付く攻めは「白が先手を取って左上隅に回れるかどうか」が1つの大きなポイントになります。

黒23は「下辺の白模様をけん制しながら重複させよう」という少し欲張りな打ち方です。

白24のハネから白26の二段バネは気合いの反発であり、右下隅の黒二子との連絡を絶つ当然の着想でしょう。

黒27のツギには白28と中央に強いほうのツギを選択します。

黒29のハネを利かして黒31とコスミツケたのは、「白石への寄り付き」を見ながら周囲の黒石を捌くためです。

「寄り付き」とは「攻めを見ている」ということです。

「攻め」とは「死活を見ている」という意味合いになります。

寄り付きとはいわば「ハネ」のようなもので、次に「取り」を見た「アタリ」を狙うことができます。

囲碁は簡単に石を取れるものではありませんから、準備段階として「攻め」や「寄り付き」があります。

石を取れないのに攻めや寄り付きを狙うのは「地を囲うための有利な形」にするのが目的です。

当たり前ですが、相手より多くの地を囲うのは決して簡単な道のりではありません。

いくつもの段階を経て、ようやく「満足できる地」を囲うことができるのです。

白32のカケ~白42のカカリまで、一連の白の構想がはっきりしてきました。

白22のとき白40とカケるのは、黒41に受けてもらえず右辺のヒラキを打たれる可能性があります。

勢い白は左上隅の黒一子を取りきりますが、続けて黒43のヒラキを打たれると右辺~上辺を足早に黒模様にされてしまいます。

実戦は右下隅の黒二子を先に攻めることにより、堂々と右辺を割ることができました。

しかも結局のところ、白42のカカリに黒21と小ゲイマ受けした形に戻っています。

これなら白は申し分ないでしょう。

右下隅、左下隅と黒が実利で先行しているため、白44~52まで地合いのバランスを取りに向かいます。

それに対して、黒51,53と中央の厚みを取りに行ったのは聡明な判断です。

黒51のとき二線のサガリを打つのも定石ですが、白51と押し上げられて右辺の白模様が盛り上がってきます。

黒51,53は上辺の黒模様と右辺の白模様の「接点」であり、逃せない「必争点」になります。

ここまで、黒石のほうが「のびのび」して打ちやすく感じます。

とはいえ白も黒石に寄り付きながら、着実に打ち進めていることに変わりありません。

形勢は互角と見てよいでしょう。

中盤解説

白54のカタツキは「この一手」に見えますが、結果的には「疑問手」だったようです。

黒55,57のオシから黒59とマゲたことにより、消しに向かった白石が「重く」なっています。

白60は「失着」です。

一見して普通の手のようですが、黒61のワリコミからさらに「重く」されてしまいます。

それ以前に白60は上辺のワタリと換わっても大した利かしではなく、H-13(8-七)とケイマされても損をしています。

白62のコスミツケは「苦肉の策」としか言いようがありません。

黒64のノビならL-17(11-三)と切ります。

黒がアタリを逃げれば、白はゲタに抱えます。

【碁盤の「」設定から「Displaycoordinates」をチェックすることで「座標」が出てきます】

【碁盤の「≡」設定から「Edit mode」をチェックすることで「検討」することができます】

黒63の出は当然の反発でしょう。

白64,66を利かし、白68と飛び出して上辺の黒模様を消すという当初の目的は達せられたように見えます。

ところが黒69のサガリまで、白はみすみす弱石を抱えた格好になっています。

もちろん右上隅の黒石を狙ってはいますが、元々右上隅を占めている黒のほうが眼形を作りやすいのです。

白70,72はお互いの根拠の要点であり、上辺の黒石の断点も狙っているため納得できます。

ただ黒73のアテに白74とコウに弾いたのは、どう考えても打ち過ぎでしょう。

黒が妥協して一線にツイでくれるなら、白は先手を取って万々歳となります。

しかし間違ってもそうはなりません。

黒75と抜いてコウを争ってくるに決まっています。

白76のボウシには黒77と早々にコウを解消します。

白78と連打したフリカワリは果たしてどちらが有利なのでしょうか?

こういうときは「手割り」の考え方を知っていると便利です。

手割りとは「石の形の評価」であり、不自然にならないよう手順を変えて判断します。

まず白70のとき白76のボウシを打ちます。

次に黒はN-18(13-二)からO-19(14-一)にハネツギます。

そして白78に連打するのが「普通の進行」です。

しかし実戦は白が余計な交換をしたことになっています。

すなわちO-18(14-二)とN-19(13-一)にそれぞれ放り込みを打って取られたのが実戦図となります。

右上隅の黒石を何の利きも残さず生かしたばかりでなく、上辺の黒石との連絡を残してしまいました。

上辺一帯の白石は完全に「お荷物」ですから、一方的に「利き」が残ったと言っても過言ではありません。

何とか下辺の黒石に食い下がらないと、白は「満足できる地」を囲う形には到底なりません。

ここまでの形勢は「黒よし」と見てよいでしょう。

終盤解説

黒79~87まで、整形しながら眼形を作ろうとしています。

白88では本来ならN-7(13-十三)と引いて生かすように打ちたいところです。

それを生かさないよう厳しく追及したということは、少なくとも形勢を楽観していないことだけは確かでしょう。

黒89~93まで頭を出されると、取りかけに行くのはほぼ不可能な形をしています。

石を攻めるときは相手の形だけではなく、味方の石の形もよく見ることが大切です。

中央の白石はともかくとして、右下隅や上辺の白石はそれほどよい形をしているわけではありません。

白94では白101と打ちたいのはやまやまですが、打ちきれないと判断してやむなく一手戻しています。

それなら黒95~99まで利かしてから、黒101と連絡を図るのがピッタリになります。

白102~106までの整形は、白94と一手戻したときからの狙いです。

黒109と生きたのち、白110のツケコシが最後の勝負手となります。

黒111,113は無駄のない「先手ヨセ」です。

黒石が生きてからでは手を抜かれますが、今なら白も眼を奪うために打たざるを得ません。

黒115~123まで、眼作りと中央への脱出が見合いとなっています。

白124はこのタイミングで打つ必然性はないので、おそらく時間つなぎでしょう。

白126と上辺の白石を整形しながら「モタレ攻め」を狙っています。

黒が上辺を受けてくれるなら、今度こそ白は黒の大石を全力で仕留めに向かいます。

黒127と押さえて、いよいよ黒の眼形が厚くなってきました。

それに伴い、今度は右上隅から上辺の白一団が薄くなっています。

白128は黒の眼を取りに行くのなら絶対の一手です。

黒129と白石に寄り付きながら、黒は眼形を得ようとしています。

ここまできたら引き続き、白130と黒石の眼を取りに行くしかありません。

しかし黒133~141まで切られてしまうと、白は方々が薄くこれ以上黒石を追及することができません。

黒147,149が決め手となり、黒151まで捌き形を得ています。

白152の切りは上辺の白一団を安定させるために必要な一手です。

黒153~157まで利かしたのち、黒159のカケツギに回っては「勝負あり」でしょう。

白160手以降はいわば「ロスタイム」のようなものです。

ここまで来るともう「大ヨセ」であり、紛れる余地はほとんどありません。

黒171の抜きは「勝ちました」という勝利宣言に他なりません。

白172は投げ場を求めた手であり、黒173~179まで手厚く打たれると白は成す術がなくなります。

この碁は185手まで、黒番王晨星(ワン・チェンシン)五段の中押し勝ちとなりました。

総評

布石までは若干白が打ちづらく感じますが、それでも形勢に差はほとんどありませんでした。

やはり流れを悪くしたのは白54のカタツキ~白62のコスミツケです。

上辺で白石の形が崩れてからは、黒の一方的な展開だったと見てよいでしょう。

白は上辺のミスを下辺の攻めで取り返そうとしましたが、挽回できる場所が残っておらず黒石を攻めるしか選択肢が残されていませんでした。

アマチュアは何だかんだ言っても中盤の攻防によって勝敗が分かれます。

しかしプロ棋士は布石でわずかでも不利な態勢になると、その後の戦いを思うように進めることができません。

そういう意味では白22と迫ったとき、すかさず黒23とツケたのは機敏な打ち方でした。

序盤早々に白の勢力を制限したからこそ、白は上辺に突入せざるを得なかったのです。

白54のカタツキではJ-15(9-五)にボウシするくらいでよかったかもしれません。

白は黒の勢力圏内で下手に戦わず、左上隅の黒二子を攻めながら主導権を握るのが理想的です。

そもそも白20のコスミ(位取り)から白40のカケを打つなら、白42のカカリでは上辺のヒラキを打つべきでしょう。

もし右上隅~右辺が上辺より大きいのであれば、黒19のカカリには右上隅へカカリ返すのが得策というものです。

さらに遡ると白18の守りを保留にして、左上隅のシマリを打つのも考えられます。

白は左下隅を半分捨ててもよいという発想で打ちます。

このように布石はなるべくあとで戦いやすくするために工夫を凝らします。

内容を見る限りでは、緊張して石運びが固くなっている様子がひしひしと伝わってきました。

恐らく相手の実力を承知していたからこそ、いつも通りの力が出せなかったのではないでしょうか。

とはいえ相手が相手ですから、たとえ万全の状態でも結果は変わらなかったでしょう。

真剣勝負なことは確かですが、両者の実力差は「指導碁」と言っても過言ではありません。

このまま推薦枠で本戦に出場したとしても、結果は火を見るより明らかです。

そろそろ客寄せパンダのような扱いは控えたほうがよいでしょう。

勉強するのに最適な場としてプロ入りさせたにもかかわらず、プレッシャーばかり与えていては本末転倒です。

仲邑菫初段が今後大きく伸びるためには、まず環境に慣れることが第一となります。

今のような特別扱いを長引かせては、いつまで経っても落ち着いて対局に臨めるはずもありません。

周りがやいやい騒がず、静かになってようやく本領発揮とプロ初勝利が見えてくるのです。

年齢や目先の結果にとらわれず、将来性を大いに期待して見守りましょう!