パンダネット初段vs初段の棋譜解説をしていきます。

 

布石解説

黒1は右上隅小目ですが、通常の右上隅小目の位置ではありません。

右上隅の右辺側(東北東)が「右上隅小目」と呼ばれる位置になります。

黒1は右上隅の上辺側(北北東)です。

東北東である右上隅小目に打つのと、北北東である黒1に打つのはどんな違いがあるのでしょうか?

実は視覚的にある程度、相手に錯覚を起こさせることができます。

碁盤は縦長に作られているのは皆さんご存知だと思います。

縦長の理由は碁盤を挟んで対面したときに、ちょうどお互いの目線の位置から盤面が正方形に見えるようにするためです。

碁盤を真上から見た場合は、碁盤の目が縦長に見えるはずです。

傍から見た場合は、横からだとなおさら縦長に見えることでしょう。

ネット対局の盤面は真正面から見て正方形になるようにできていますが、普段から碁盤で打っている方は盤面が縦長だという刷り込みがあります。

その刷り込みを利用すると、黒1,3の右辺の12間幅が上辺に展開したときの12間幅よりも広く感じられます。

相手の模様が広いと感じたら入りたくなりませんか?

「広く構えて入らせて攻める」というのが先番である黒の王道の打ち方ですので、初手の黒1は立派な作戦でしょう。

黒1を見て「右上隅(東北東)を知らない」もしくは「テキトーに打っている」と感じるのか、あるいは何か作意を感じるのかでは大きな違いです。

勝負ごとにおいて相手を軽んじるのは非常に危険な行為であり、自分が何も考えていないと言っているようなものです。

白2では黒の企みを外す意図で、右下隅に打つ意味もあったでしょう。

後手番である白は二連星に打つのが、まず間違いのない布石の基本戦略です。

なぜなら四隅をお互いに占めた後、必ず黒が5手目に打つ権利を持っているからです。

小目はシマリを打って初めて一人前の形になります。

黒番は1,3手目のどちらかで小目を打っていれば、5手目にシマリを打つ権利があります。

しかし白番では2,4手目のどちらかで小目を打てば、5手目にカカリで邪魔される可能性があります。

もし黒がカカリを打たずにシマリを打てたとしても、一隅に二手もかけるのは後手番の白が大局で遅れる原因になりかねません。

後手番の白はなるべく不確定要素の少ない星に打っておき、大局で遅れないようにするのがベターな作戦です。

白2,4と両隅を小目に打つのであれば、白も片隅でシマリを打てる可能性が高くなります。

なぜならカカリはほとんど後手になるからです。

「カカリ・受け・ヒラキ」が隅~辺の基本形になります。

黒5とカカリを打てば、白は単に左辺を受けていても黒の下辺へのヒラキを待って先手を得られます。

しかし黒5~13まで、次の白番で左上隅にシマリを打つのは左辺に白石が偏り過ぎています。

白14の意図は「黒が下辺へのヒラキを打っていない」ので挟んで攻めようということでしょう。

黒が下辺にヒラキを打っていないとはいえ、黒13のオサエで黒から白二子をコウにして取る狙いが生じています。

左下の黒石はいざとなったらコウを仕掛ける保険がありますから、黒15と逆に挟んだ白石を攻め返すのがよい判断になります。

白は布石を打たずにすぐに戦いを仕掛けるべきではありませんでした。

白16~22まで下辺の白が棒石で白地がほとんどできません。

白22は黒石の攻めを継続するために不可欠な受けでしょう。

黒23のトビが絶好点であり、次に黒は下辺の白石の攻めと右辺への展開を見合いにしています。

白は下辺に黒地を作らせないために黒石を攻めようとしていましたが、このままでは逆に白石を攻められながら右辺に黒地を作られてしまいます。

白14では右辺にワリウチを打っておけば、少なくともワリウチ+二間ビラキで白地ができていたことでしょう。

白14は黒地を減らす、邪魔するだけで白地ができないことが最大のネックです。

布石の段階で右辺に打っておけば、黒地を邪魔しながら白地を作ることができました。

白24は無謀な捌きです。黒25と分断されて白は隅で生きるしかありません。

白26~36まで白は右下隅に「一手」使ってしまいました。

次に黒は下辺の「白石を攻めるも良し」「右辺に展開するも良し」という最高の状態です。

ここまでくれば、碁盤が縦長かどうか関係なく右辺の黒模様は広いでしょう。

白としては「左上隅の小目をシマリたい」「下辺の白石を捌きたい」「左下の黒石を攻めたい」「右辺の黒模様を邪魔したい」などやりたいことが山積みです。

後手番の白はあっちもこっちも欲張るようなことはできません。

白番のコツとしては、一つ一つ丁寧に治まっていくことが黒地を作らせない近道です。

まず最初の二隅は星に打って「一手」で治まります。

黒の隅にカカリを打つときは「カカリ・受け・ヒラキ」の手順で治まります。

もしくは「カカリ・ハサミ・三々(ツケ)」の手順です。

とにかく焦らないことがコミ6目半を活かす白の戦い方になります。

中盤解説

黒37は攻め方としては下策です。

そもそもなぜ白石を攻めるのか、攻めとは何か考えてみてください。

よく「攻めとは石を取ることではない」と言われることがあります。

まさにその通りで、もっと正確に言うなら「攻めとは石を取って地にすることではない」となります。

攻めの基本は「相手に地を作らせない」です。

「相手に地を作らせない」「相手に眼を作らせない」「相手の石を取って地にする」のが攻めの目的になります。

黒番であれば「白地を作らせない」「白に眼を作らせない」「白石を取って黒地にする」です。

この「白石を取って黒地にする」ことを今一度考えてみましょう。

結局、黒地にするというのは「守り」と同じことです。

「白地を0目にして、白石と空間を取った分だけ黒地にすること」が攻めて地にする意味になります。

攻めと守りをより理解するためには「出入り」の考え方が必要になります。

出入りとは黒地が増えて白地が減る、白地が増えて黒地が減るなどの地の増減のことです。

守りでは自分の地を増やすだけになるので、相手の地を減らすことができません。

攻めると相手の地を減らすだけではなく、場合によっては相手の地を0目にして取る(自分の地にする)ことができます。

一番素晴らしいのは相手の大きな地を荒らして、そのまま弱点を突いて大石を取ってしまうことです。

白地30目あったところに突入して、暴れまわって白石を取って黒地50目できたなんてことになれば出入りは80目にもなります。

攻めると地の増減が大きく、守りでは地が増えるだけで減らすことができず地の増減が小さいのです。

簡単に攻めと守りの判断を下すのであれば、地の増減が大きいか小さいかを見極めることです。

例えば、白一子を取ったとしましょう。

白一子を取るような状況はおそらく「守り」だと考えられます。

なぜなら白一子には白地がなく、大きな黒地もできません。

白一子を取って黒石が安定した、もしくは少し黒地ができたと考えるのが自然でしょう。

では、白石20子を取ったとしましょう。

白石20子取るような状況はおそらく「攻め」だと考えられます。

なぜなら白20子には白地を作れる可能性が高く、また取ってしまえば大きな黒地もできます。

白20子の眼(地)を奪って召し取った、積極的に取りに行ったと考えるのが自然でしょう。

先ほど「攻めとは石を取って地にすることではない」と言いました。

直後に「相手の石を取って地にする」のが攻めの目的とも言いました。

前文は地の増減が少ないことが前提の言葉になっています。

後文は地の増減が大きいことが前提の言葉になっています。

どちらも決して矛盾するものではありません。

対局に話を戻します。

黒37のワリコミで白三子を取りに行ったのは攻めとしてはよくありません。

なぜなら白三子には地がなく、白地を減らすことができないからです。

そして白三子を取ってできる黒地もたかが知れています。

もし黒石が弱い状況であれば、白三子取りは守りとして立派な狙いになります。

しかし右下の黒石は強いですから、ここで増減の小さい守りを打っても仕方ありません。

同じ守るのであれば、右辺に打っているほうがよほど地が増えるでしょう。

ちなみに上辺に打つのは、左上隅の白石の展開を防いで増減が大きいため「攻め」と見てよいでしょう。

黒37では白4子を中央からボウシして、まとめて「攻める」のがよかったでしょう。

白4子には白地がないため黒から「相手の地を減らす」ことができません。

しかし白4子を取ることができれば、下辺一帯の空間とともにできる黒地が大きいでしょう。

囲碁は常に相対的なものですから、攻めと守りの価値判断も局面次第というわけです。

黒37,39の割りツギに対して、白40のツギはどちらかと言えば「攻め」になります。

黒一子を取り込んで白の眼形を作ろうと考えているのなら白のツギは「守り」と判断します。

将来的に「左下一帯の黒数子を取り囲んで取ってやろう」と考えているのなら白のツギは「攻め」と判断します。

黒41の切りは白42,44と押されて攻めになっていません。

白一子を取り込むのはただの守りになってしまいます。

黒45の切りは下辺の白5子を狙っている攻めですが、これは無理筋でした。

白46,48であえなく御用になっています。

黒二子を取った白の手は守りになりますが、白52~56と出切ったのは立派な攻めになります。

攻めと守りの価値判断はあくまでも「出入り(増減)」で考えていますから、常に相対的なものであることは念頭に置いておかなくてはいけません。

つまり白56に対して、黒は左下を手抜きして右辺に向かいます。

白が左下を取り切れば、次に黒は上辺に打って大模様を形成します。

もし黒模様、もしくは黒地の規模が左下の黒数子取りより大きいのであれば、白56の切りは守りの手になってしまいます。

囲碁では攻めは先手、守りは後手です。

攻めるのは出入り(増減)が大きいので、相手が受けてくれるため先手になります。

守るのは出入り(増減)が小さいので、相手が受けてくれないため後手になります。

「地を守る」と言うときは地を増やすだけのときに使います。

「地を攻める」と言うときは地を減らしながら増やすときに使います。

言葉で囲碁を表現しようとするのは難しく、あくまでも盤上の状況次第です。

白56の切りに黒57と対応してくれたので、白の切りは立派な攻めになりました。

黒57~157までお互いに相手を攻めた結果、左辺の白の大石が取られてしまいました。

終盤解説

白78のカケツギが白の致命的なミスの一つでしょう。

黒79の切りを許して、黒が白二子を取って治まったのは小さくありません。

白79とカタツギにしておけば、もう一つの断点は切られても受かっています。

もう一つ致命的だったのは白98~102と強引に攻めていったことです。

白102の切りは読み不足な手で、黒103ですぐにゲタで取られます。

白98,100と出て行ったことで、白4子がダメヅマリになり黒109~113と反撃されてしまいました。

しかし白115と上からアテて取れているものを、白114と逆からアテてしまっては最終的に左辺を取られてしまっても文句は言えません。

白156,158とコウ材を連打したものの、この碁は左辺の白が潰れた時点で終わっています。

ところが「勝負はゲタを履くまでわからない」とはよく言ったものです。

白160~164まで右辺を利かしながら、実は白166と打って下辺の黒石を狙っていました。

黒167のタケフは軽率でした。ここは守らなくても白166の一子はゲタで取れています。

白168~174まで、にわかに黒石の生き死にが怪しくなってきました。

とはいえ、黒は左辺を潰しているので余裕綽々で打っています。

黒175~179まで打っておいて黒三子を捨てれば、何も起こりません。

しかしここにきて、白180の狙いを甘く見たのが黒の敗因となってしまいました。

黒181の手抜きに白182~186と出切って、いよいよ下辺と右辺の黒石の死活が危なくなってきました。

ちなみに白182のアテに黒183のツギではなく、黒184とこちらをツイでおけば黒が勝っていました。

結局、黒191,193と黒が右辺の黒石を頑張ったために、白228まで白は中央の大石を仕留めることができました。

このあと最後まで打たれて、結果は白の半目勝ちとなりました。

総評

この碁は終局間際まで見ごたえのある乱打戦の素晴らしい対局でした。

こういう碁に限っては悪手や失着などの失点はお互いにものともしません。

相手の石を攻めて攻めて、得点を上げていけば失点を取り返すことができます。

結果が半目勝負だったことも乱打戦の挙句、形勢が拮抗していたことを表していて好感が持てます。

もちろん先に大量失点してしまった白に分が悪い状況ではありましたが、失敗を何としても取り返す意欲を白の打つ手に感じました。

皆さんも地の増減が大きい攻めを打てるようになると良いですね。

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