パンダネット初段vs初段の棋譜解説をしていきます。

 

布石解説

黒1~7まで黒は四連星の構えです。

黒9のカカリに白10と5線に受けたのは十分雰囲気が出ています。

黒11の一間トビで隅を受けさせようとする利かしには、白12と中央の一間トビで反発します。

白が隅を受けなかったので、黒13,15の突破は当然の成り行きです。

白16~22まで、はっきり言って左辺を突破されたのは白の失敗でしょう。

しかしこれでよいのです。布石の段階こそいろいろ試して打ってみることが大切でしょう。

黒23,25の連打は厳しい狙いですが、手(ダメヅマリ)になるまではまだ遠そうです。

白26~38まで左下隅の白は最悪でもセキ生きは確保されています。

白24の打ち込みに対して、黒39と受けに戻りました。

白40の一間トビには黒41,43と攻められて、白が苦しい展開です。

とはいえ、まだ序盤の段階です。中終盤にいくらでもチャンスが巡ってきます。

大事なことは勝ち負けの当落線上から落ちてしまわないことです。

ここまで来ると負けというボーダーラインは棋力によって差はあれど、必ず存在します。

囲碁は自ら投了を宣言することで、敗者が対局をコールド負けにする権利があります。

これは非常に大切な権利であり、勝者には終局を待つ以外に対局を終わらせる権利がありません。

50目勝っていようが、100目勝っていようが、自ら途中で対局を終わらせるには負けを宣言するか反則負けになる他に手段がありません。

つまり勝者は終局を迎えるそのときまで、油断するなどもってのほかだということです。

しかし勝者以上に敗者には投了をするという高い技術が求められます。

ここであなたに一つの質問をしましょう。

「あなたの投了する基準は何ですか?」

盤面で30目以上差が開いたら投げるのでしょうか。

それとも大石が取られてしまったら投げるのでしょうか。

はっきり言って打つ前から投了の基準を決めている人はほとんどいません。

皆さん勝つつもりで打っていますからね。

上の質問をしたときに「そんなの逆転不可能になったらに決まっているじゃないか」と思った方もおられるでしょう。

そう思ったあなたは逆転不可能になったらちゃんと投了していますか?

これは断言してもよいかもしれません。

敗着を打って負けを確定させてからすぐに投了している人なんて一人もいません。

囲碁ではよく「投げ場を求める」なんて言葉がありますし、将棋でも「最後のお願い」という言葉があります。

要するに心の整理ですね。負けるとわかっていても投了を先延ばしにしているのです。

これはプロ棋士も同じことが言えます。

プロの手合いで30目負け、20目負けになっている棋譜を見たことは一度もありません。

終局までにそんなに差が付いていたら、プロにとっては逆転不可能どころか恥でしかありません。

とはいえ、小ヨセをかなり正確に読めるプロ棋士ですから3目半負け、2目半負けというのも本当はずいぶんおかしな話です。

大ヨセが終わり、小ヨセに入った段階で2目半の差が付いていれば、プロ棋士なら逆転が望めないことくらいわかります。

「この碁は黒が半目厚かった(優勢だった)」「この碁は白が半目薄かった(劣勢だった)」

プロ棋士にはこんな評価ができるくらいですから、半目勝負や1目半勝負の碁以外を投了できないのはただ負けを先延ばしにしているだけでしょう。

これがアマチュアになるともっと顕著になります。

布石の段階で30目以上差が付いても投げる必要はありません。

まだ逆転の可能性があります。

中盤の段階で大石を取られても投げる必要はありません。

まだ逆転の可能性があります。

しかし逆転不可能な大差のまま終盤の段階になったとき、あなたはどうしますか?

最後の最後でダメヅマリを狙いますか、それとも対局時計があるなら時間切れ負けを狙いますか?

最後の最後まで、ダメヅマリや時間切れ負けを狙っている方はまだ「上等」です。

ルールの範囲内で勝ちを目指すのは当然の行為でしょう。

もっともよくないのは、勝ちを目指さずにただ惰性で終局へ向かって打っているだけの碁です。

「ああ、もう勝てないな」とわかっていても投げれない、負けを終局まで先延ばしにしています。

「こんな碁さっさと投げろ」なんて言う権利は勝者にも観戦者にもありません。

いつ投げるのかは敗者が決めることです。

以前、碁会所でこんなことがありました。

盤面大差で勝っているAさんと最後まで投げずに打ち続けるBさんがいます。

終局した後、Aさんが整地しようとするとBさんが「うん、足りないな」と言ってそこで負けを認めました。

するとAさんは怒って言いました。

「こっちはこんな大差の碁を最後まで打たされたんだから整地くらいしろよ。最後まで打ったら整地までするのが礼儀だろ。」

結局、整地して大差であることを確かめてAさんが納得して終わりました。

皆さんはAさんの言い分が正しいと思いますか?

残念ながらAさんの主張はお門違いも甚だしいでしょう。

囲碁は何目差付いたのかを争うゲームではありません。

それ以前に、いつ投げるのかは敗者が決めることです。

勝者がとやかく言う権利はありません。そこははき違えてはいけないでしょう。

とはいえ、Aさんの気持ちがまったくわからないわけではありません。

Bさんが逆転のために何か狙っている、勝つために打ち続けているのなら終局まで粘るのは何ら問題ありません。

しかしただただ勝敗を先延ばしにして時間切れ(終局)を待って投了するのはいかがなものでしょうか。

他人にとやかく言われる筋合いはないですが、はっきり言って投了できない人はいつまで経っても上達できません。

自分自身の中に明確な勝敗に対する基準がないため、勝負を仕掛けることも我慢してチャンスを待つこともできないのです。

張栩九段の書籍の中にも似たようなエピソードがありました。

要するに相手が投げてくれないといった内容です。

「もう逆転の目はないはずなのに、相手に粘られるのはどうしたらよいのだろう。」

若き日の張栩九段もそんな悩みを抱えていたようです。

しかしそれはプロの手合いの話であり、相手は当然プロ棋士です。

張栩九段の結論は「相手は自分のミスを期待しているに違いない」「だったら今後、優勢の碁を絶対に落とさないようにして無駄なあがきと知らしめよう」ということです。

これが功を奏したようで、その後の張栩九段の活躍と正確無比な終盤力は周知の事実でしょう。

プロ棋士は勝ち負けに生活が懸かっているわけですから、最後まであきらめない粘りはわからないわけではありません。

問題なのは勝つ気のない碁を最後まで打ち続けていることです。

あるプロ棋士は「勝てないことはわかっているが、この碁は何目差になるのか確かめたい」という理由で終局まで打ちました。

つまり投了する局面での自分の形勢判断(目算)は正しかったのか、また敗着(ミス)がどれくらい損したのかを知りたかったということでしょう。

残念ながらこのプロ棋士の先生の考えはズレています。

なぜなら仮に3目半の差が付いた局面から、勝っているほうは終局までに3目ほど緩めることができるからです。

いわゆる安全勝ちというわけです。

3目半差で勝てる碁をキッチリ3目半勝つことが最善なのでしょうか。

それとも3目半差で勝てる碁を安全な手を選んで半目勝ちするのが最善なのでしょうか。

対局はあくまでも勝負です。棋道を求めるなら前者が最善でしょうが、勝負師なら後者を選ぶのが最善でしょう。

いくら自分が棋道の精神で最善を求めたところで、相手がお付き合いしてくれる道理はありません。

このプロ棋士の先生の考えはズレていますが、目的があるからこそ投了せずに最後まで打ち続けたのです。

ここで話をいったん整理しておきましょう。

・投了するのは敗者の権利であり、終局(整地)するまでいつでも宣言してよい。

・勝者は勝つまで勝負を終えることはできない、観戦者共々とやかく言う権利はない。

・素人からプロ棋士まで投了できない、もしくは投げるまでに時間(手数)がかかる人が大半である。

・勝つ見込みが1パーセントでもあればよいが、まったく見込みのない碁を勝つ気もなく打ち続ける人は上達できない。

投了とは囲碁において高度な技術なのです。

勝ち負けの当落線上を意識しながら、終局までに半目でも勝つことを目指します。

要するに投了するには「形勢判断(目算)」が欠かせません。

目算をいい加減にやっている人、そもそも目算をやっていない人に限って投げるタイミングを逸してズルズルと最後まで打ち続けてしまいます。

高段者以上になってくるとある程度感覚で形勢判断できるようになりますが、それでもどんぶり勘定で目算しているうちは適切なタイミングで投了なんてできません。

投了するのもしないのも敗者の権利であり、あなたの自由です。

しかし無駄な時間を過ごしている人が上達できるわけがないことは理解しておきましょう。

長くなりましたが、対局に話を戻します。

黒43と打たれて白三子が厳しく攻められそうですが、捌く手段ならいくらでもあります。

それに盤上にはまだまだ空間が残されていますから、その分チャンスもあります。

中盤解説

白44~48の出切りから捌きを求めたのは素晴らしい着想です。

切って「黒石も危ないですよ」と主張することで、相対的に白石の守りになっています。

黒49のタケフは良いとして、黒51では二線のハネツギが急所になりました。

逆に白52,54と二線のハネツギを打たれるのは、黒二子の「二目の頭尻尾」を押さえられてよくありません。

白46の出に黒47と白二子の「二目の頭」を押さえています。

白48と切ると今度は白が黒二子の「二目の頭」を押さえている形です。

黒49ではすぐにでも白二子の「二目の頭尻尾」である二線のハネツギを急ぐべきでした。

部分的な折衝で急所を逃すと途端に流れが変わります。

黒55~65まで黒の攻勢が続きますが、白66,68と出切りで反発したのがこれまた素晴らしい着想です。

白66では「ケイマのツケコシ」の切り方(白67)のほうが勝ります。

黒69のノゾキ(タケフ)に白70のぶつかり(タケフ)で応えるのは、黒71と出られて裂かれ形になるのがネックです。

とはいえ他に適当な手も見当たりませんから、ここは裂かれても致し方ないでしょう。

白72~76、黒73~77となって依然として黒が優位なのは変わりませんが、徐々に勝負形に近づいているのは確かです。

白78~82までの押しを黒79~83まで受ける必要があったのかは甚だ疑問ですが、下辺の「二目の頭尻尾」のハネツギのおかげで黒は眼形の心配をしていたようです。

白84~98まで「攻めは最大の防御」と言わんばかりの豪快な打ち方です。

しかし現実問題として白石も十分薄いので、黒99のマゲには白100~104まで先手で左辺の白石を補強して白106と下辺の白石の生きに戻りました。

左辺の白石の眼形を確保するためとはいえ、左上隅の小目が裂かれ形になってしまったのは白にとって大きなマイナスでしょう。

黒107~111まで隅の大ゲイマジマリを破りながら黒は眼形を得ました。

もちろん方々の白石が薄かったわけですから、これくらいは黒にとって当然の戦果と言えます。

黒113と飛び込んで左辺の白石を追及しに行きますが、白122のアテコミが先手で利いているので白生きは確保されています。

むしろ黒113と白石を攻めたはずなのに黒123まで後手を引いてしまっては、白にチャンスを与えることになっています。

先手を得た白は慌てて右辺に向かわずに、白124と中央の黒石に寄り付いたのが上手い石運びです。

結局、黒143の生きを強要してから悠々と白144のカカリに回ることができました。

終盤解説

序盤での遅れがずっと尾を引いて、依然として黒が優勢なことに変わりはありません。

しかし初段の棋力であれば、十分逆転可能な圏内にいるのは間違いありません。

黒145~157まで右辺をすべて黒地にされてはさすがに勝つ見込みがなくなります。

白は入って行くしかありませんが、白158の突入では浅く不十分でしょう。

黒159のツケから黒161の切りまでは良いのですが、黒163,165の連絡(封鎖)は方向違いの悪手でした。

黒163,165のような連絡(封鎖)が好手になるのは、中央にまだ石が来ていない布石の段階です。

中央にお互いの石が来ていてすでに生きているのであれば、連絡(封鎖)による厚みが外側(中央)に活きません。

かといって内側(盤端)に潜り込んだ白石を殺すこともできません。

白166~178まで右辺を先手で生きれたことは、白にとって望外の戦果になりました。

白180,182の大ヨセも盤面最大の手止まりです。

黒183以降は小ヨセに入ります。

お互いに素晴らしいヨセ合いが続いています。

しかし忘れてはならないのが、左下隅の白石の死活です。

白が死ぬことはありませんが、ここをしっかりヨセることができれば黒勝ちは動きません。

白228~234まで白が勝つためには、ある意味この進行しかありませんでした。

黒235と左下隅から手を引いてしまったのが、最後の最後で黒の敗着となってしまいました。

白236と手を戻すことができて白は事なきを得ています。

黒236と追及できれば、左下隅はコウになり白が持たないでしょう。

しかしそれでもまだ黒がわずかに勝っています。

本当の敗着は黒237~241で、4目だった白地が6目になっています。

最後は半コウ争いも制した白の半目勝ちとなりました。

総評

序盤で白10,12と積極的に工夫をしたことが、結果的に白の苦戦を招く原因になってしまいました。

しかしそれでよいのです。

失敗するなら序盤に限ります。中盤以降、手が進むにつれて失敗するのは致命的になりかねません。

空間が残っている布石の段階でチャレンジすることは、勝敗の当落線上を意識した打ち方でもあります。

級位者の方ほど布石を手堅く打ち進め、中盤以降に旗色が悪くなるとえいやーと勝負に出て敗色濃厚になります。

それで潔く投げることができればよいのですが、なかなか簡単に投げられるものではありません。

それならば早い段階から積極的に工夫することで、たとえ旗色が悪くなっても巻き返しのチャンスを多く確保するほうが得策でしょう。

負けたくないからこそ手堅く打ちがちな布石・序盤をチャレンジや工夫の場にすることによって、負けを受け入れる心構えも自然と養われます。

「失敗しても良い、チャレンジできなくなれば投了しよう。」

そういう心構えで打つことこそ、きっと上達への近道になると信じています。

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