「囲碁における切りとは何か?」について考察していきます。

囲碁における切りとは

切りの目的

「あなたは石を切るのが得意ですか?」と質問されたら、あなたはどう答えますか?

「石を切るのは大好きです!」

「石を切らないと碁を打った気がしません」

なんて答えられたら、あなたは間違いなく有段者になる素質を持っています。

大半の級位者の方々は

「石を切るのは苦手です」

「石を切られると、どうすれば良いのかわかりません」

と答えることでしょう。

そもそも「石を切る」という言葉の意味を理解している方はどれほどいらっしゃるのでしょうか?

級位者・有段者の方で正しく答えられる方はごく一部に限られます。

一部の聡明な方を除く、ほとんどの方が「知ったかぶり」もしくは「知らずに」石を切っているのではないでしょうか?

実のところ「石を切る」理由とは至ってシンプルな考え方なのです。

Q 石を切るのは「相手の石を取るため」ですか?

A いえ、それは本来の目的ではありません。

Q 石を切るのは「局面を複雑にしたいから」ですか?

A いえ、それは本来の目的ではありません。

Q では、石を切るのはどういった意味合いなのでしょうか?

A 石を切るのは「相手の地を減らすため」というのが正解になります。

このような考え方で今まで石を切っていた方はいらっしゃいますか?

イメージしづらい方も多いでしょうから、反対のことから考えてみましょう。

Q あなたは「自分の地を増やすため」にどういった石運びをしますか?

A ええと、とりあえず隅とか辺に打ちますかね。

Q では、隅や辺に打った石からどうやって地を囲いますか?

A それは「連絡」して相手が入って来れないようにするとか、かな。

A はい、「石同士を連絡する」ことで最終的に自分の地になりますね。

つまり「石を連絡する」ことが「地を囲う」または「地を増やす」ことにつながります。

それなら「石を切る」ことが「地を囲わせない」または「地を減らす」ことにつながるのも容易に想像できるでしょう。

囲碁は地の「増減」を争うゲームですから、ただ石をつなげて地を増やすだけでは不十分なのです。

石を切り合ったときの特徴として「石の取り合い」「局面の複雑化」が挙げられます。

地を構成している「相手の石」を取ってしまえば、「地を囲わせない」目的を達することができます。

その際、石を取ることで10目あった相手の地が「-10目」になるかもしれません。

盤上における味方の「マイナス」は敵にとっての「プラス」になります。

石を取られたら「相手の地が増える」そして石を取ったら「自分の地が増える」のです。

もっと正確に表現するなら、石を取られたら「自分の地が減らされて、相手の地が増える」といったところでしょう。

あくまでも「石を切る」とは「相手にとってマイナスの行為」に相当するのです。

さらに石を切ることで「局面の複雑化」が予想されます。

仕組みは至ってシンプルです。

石を連絡して、地を囲うことで「終局」に近づきます。

石を切って、地を囲わせないといつまで経っても終局しません。

すべての石がつながって(捕虜は死に)地の境界線が明確になったところで終局になります。

終局に近づけば、近づくほど局面が落ち着いてわかりやすくなってきます。

級位者の方は「石が混み合っているから」わかりづらいかもしれませんが、不確定要素が少なくなるほどわかりやすいのです。

だからこそ、石を切ると不確定要素(どこが地になるのかわからない)が多くなります。

石を切ることで「石の取り合い」を含めた「局面の複雑化」が予想されますが、有段者を目指す上で避けては通れない課題でしょう。

連絡して「地を囲う」だけでは、囲碁の半分しかこなしていません。

石を切って「地を囲わせない」ことで、やっと陣取りゲームのすべてを網羅することになります。

切らないと始まらない

以前、指導碁をしているときに「思い切って石を切ってみましょう!」とアドバイスしたことがあります。

級位者の方にはよく言うセリフなのですが、あるとき1人の方がこう言い返しました。

「先生、私は石が切れません」

まあ、石を切って良い思い出がないのは想像に難くありません。

とはいえ、他にアドバイスすることもなかったので「とりあえず切ってみましょう!」と言いました。

すると「いえ、私は石が切れません」と頑なに石を切ることを拒み続けました。

これは困ったものだと思いましたが、本人が切りたくない以上どうしようもありません。

実は「私は石が切れません」と頑なに主張する方はたくさんいらっしゃいます。

はっきり言って「切らないと碁になりませんよ」というのが本音です。

戦争に行って「私は戦いません」と言っているようなもので、気持ちはわかりますがそれでは逆に危険な目に合います。

戦う選択肢があるからこそ「抑止力」となり、身の安全を図ることができるのです。

切りたくない方は戦いにおける「成功体験」を積んでいないことが主な原因となっています。

上手に石を切られて局面が難しくなっていく最中に石を取られたり、地を荒らされたりと散々な目に合ってきたのでしょう。

実際に置き碁における上手の行動とは「石を切る」ことで局面の複雑化を図り、簡単に「地を囲わせない」ことです。

さらにあわよくば下手の石を取って大ダメージを与えてきます。

「捨て石を上手く活用しましょう!」と言ってもどの石が「種石」で「カス石」なのか的確に判断できるはずもありません。

捨て石とは「石を切る」ことに長けた有段者以上の技になります。

石を切られて良い思い出のない方に「石を切りましょう!」というのは酷な話かもしれません。

しかしながら「切らないと碁にならない」というのもまた事実なのです。

Q 「碁にならない」という意味がわかりません。

A 囲碁のルールをもう一度振り返ってみましょう。

Q はい、囲碁のルールは全部で5つでしたね。

A そうです。「交互に打つ」「石を囲んで取る」「打てない場所がある」「同じ形の繰り返しはダメ」「最後に地の多いほうが勝ち」この5つです。

Q これら囲碁を構成しているルールによって何がわかりますか?

A 石を連絡して地を囲うだけなら「交互に打つ」「最後に地の多いほうが勝ち」だけで事足ります。

A 石を切らない限り「アタリ(石取り)」「眼(着手禁止点)」「コウ(同形反復禁止)」の形は出てきません。

Q なるほど。石を切らないことで3つのルールを無視して最後まで打ちきることはできますか?

A ほぼほぼ可能でしょう。交互に打っているため一方的に包囲することもできませんから、死活にもなりません。

Q つまり「碁にならない」とはどういうことですか?

A 争いが起きない以上「陣取りゲーム」ではなく、ただの「石の並べ合い」ですね。

結局のところ、争いのないゲームは何もしていないのと同じです。

失敗ばかりで負け続けているからといってゲーム性そのものを放棄してはいけません。

石を切り合っても戦えるように「手筋」や「死活」をコツコツ勉強しておくとよいでしょう。

「手筋」とはアタリ(石取り)のことであり、「死活」とは眼(着手禁止点)のことです。

ルールに沿って学んでいくことで、ゲーム性を損なわずに最後まで打ちきることができます。

切った後どうするか?

石を切れない最大の理由は「切った後、どう打てば良いのかわからない」というものでしょう。

石を切るのが「相手に地を囲わせない」ことが目的であるなら、切り込んだ石はどう立ち回ればよいのでしょうか?

基本的には「生きる」ことが正解になります。

切った石を取られないように守ってしまえば、周囲の空間を掌握することができます。

最終的に取られてしまってはダメですから、最後には「生きる」ことが必要不可欠となります。

切った石を生きる上で、いくつか選択肢があります。

・他の味方の石に連絡する

・単独で眼を作る

・相手の石を取って連絡する、または眼を作る

この3パターン以外はすべて「取られ(捨て石)」になります。

石を切る前に確認することは「連絡できる目処」あるいは「眼を作る余地」があるかどうかです。

もしくは「相手の石を取ることができる」状況であれば、迷わずに切りを打って構いません。

特に中央方面は盤端よりも石を取ることが難しいですから、中央で石取りのチャンスがあれば積極的に切りたいところです。

「相手の石を切っても、石を取る自信がありません」という方もいらっしゃるでしょう。

しかし石取りに必要なのは「自信」があるかどうかではなく、確信的な「読み」があるかどうかなのです。

つまり「手筋」の習得や「死活」の習熟が欠かせません。

シチョウを自信があるかどうかで追いかけていては心もとないでしょう。

結果がわかっているからこそ「ナナメの連続」であるシチョウを決行することができます。

ゲタに抱えるのも必ず取れる、もしくは「シボリ」の形にできなければ打ってはいけません。

ゲタを突破されると「裂かれ形」になりますから、確信的な「読み」に従って打つべきなのです。

「読み」の話をすると条件反射的に「読めません」と答える方がいますが、読めないことはあり得ません。

囲碁において「読まない」とは、すなわち「アタリ(石取り)」がわからないということです。

囲碁のルールは3歳児でも理解することができます。

石を交互に打てれば2歳児、石取りができれば3歳児、その他のルールも丁寧にゆっくり時間をかけて教えればわかります。

「読み」はアタリから派生した単純な積み上げによって成り立っています。

読みに自信がない方は問題集を片っ端から解くことをお勧めします。

その上で対局するのは「下手」に限定しましょう。

すると面白いように「技(手筋)」が決まります。

下手の方にとっては堪ったものではありませんが、読みの自信を付けるには成功体験を繰り返すことが近道です。

ただし「問題集を解く」ことは必ずやりましょう。

なぜなら石の取り方がまったく上達しないまま「変な癖」だけ身に付いてしまうからです。

とにかくペタペタ石をくっつけて「取れたら嬉しい」「取れなかったら悔しい」といった一本調子の打ち方になりかねません。

勉強と実戦を併用することで「正しい成功体験」を積むことができます。

石取りに対する自信さえ付けば、もう「石を切る」ことを恐れずに打てます。

そうすると今度は「競り合い(連絡)」や「死活(生き)」そして「捨て石」といった高度な戦術を組み立てていくことになります。

「石を切った後、どうなるか?」という検証が難しいようなら、9路や13路などの小さい盤で対局してみてはいかがでしょうか?

もちろん「局後の検討」をするのは必須として、対局を積み重ねるごとに石の流れが見えてきます。

結局のところ、石は死なない限り「生きる」しかありません。

「石を切る」のは「相手の地を減らしながら生きる」ことに他なりませんから、怖がる必要はまったくないのです。

どうしても「石取り」が絡んでくると難しくなりますが、それも実力のうちです。

石を切り結んだとき簡単に石を取られないように「手筋」や「死活」の勉強を怠らないようにしましょう。