「囲碁における模様とは何か?」について考察していきます。

囲碁における模様

石の強さと空間の違い

あなたの棋風は次のうちどれに当てはまりますか?

・「実利」派

・「模様」派

・「厚み」派

「派」という単語は「重視」と置き換えても構いません。

よく比較される構図は「実利vs模様」あるいは「実利vs厚み」でしょう。

「模様vs厚み」という対比は聞いたことがありません。

なぜなら一方が「実利」を取れば、もう一方は自然と「模様」や「厚み」になるからです。

それでは「模様」と「厚み」にはいったいどういった違いがあるのでしょうか?

「模様」とは「地」を囲えそうな空間のことを指しています。

対して「厚み」とは「石」の強さのことを示しています。

実は「厚み」の対義語は「薄み」であり、基本的には「石」の連絡と切断を表しています。

「連絡している」強い石のことを厚みと呼び、「切断されている」または「断点が残っている」弱い石のことを薄みと呼びます。

そのため「模様」を評価するときに、「厚みのある模様」あるいは「薄みの残っている模様」といった表現をします。

要するに「石の連絡がしっかりしている模様」または「石が切れていたり、断点が残っている模様」というわけです。

「実利」を評価するときには「石の強さ」は関係ありません。

理由は単純です。

「地」とは生きている石のことですから、「実利を得ている」時点で「厚みを得ている」ことになります。

もっと正確に言うなら「盤端に向けて厚みを得ている」という表現でしょう。

つまり「実利vs厚み」というワカレは「盤端に向けての厚みvs中央に向けての厚み」となっているのです。

よく「実利vs厚み」や「実利vs模様」の構図を「シノギvs攻め」に置き換えたりしますが、知らない人に誤解を与えてしまう表現です。

あたかも「シノギ(薄い)」「攻め(厚い)」という印象を与えていますが、実利を取ったからといって必ずしも「薄くなる」とは限りません。

実利は厚みの働きが盤端に制限されてしまうので、中央での戦いに不利になると思われがちです。

しかし実際には「相手の石の眼を奪っている」ため、「壁攻め」を虎視眈々と狙っている場合が多いのです。

かつて同門の武宮正樹九段に「地下鉄みたいな碁」と評された(揶揄された)小林光一九段の打ち方もまさに「盤端の厚みを得る」ことが目的だったのです。

今流行りの「即、三々入り」もまったく同じ狙いです。

「実利」を取ったから攻められる立場というのはとんでもない誤解であり、「模様」を取ったからといって攻める立場になるとも限りません。

「攻め」とは「石」に関することです。

「連絡」や「切断・分断」あるいは「断点の有無」によって厚みなのか、それとも薄みなのかを判断します。

戦うのが苦手な方は囲碁を「空間」でしか見ていません。

「地」のことを「厚み」として考えたことはありますか?

連絡しながら眼を確保して生きている石は厚みであり、空間としては「地」と表現します。

模様も空間だけを見ていては、とても囲いきれるものではありません。

模様(空間)を構成している「石の強さ」こそ、模様構築のカギとなるのです。

4つの段階と見えない空間

「実利(地)」と「模様」はそれぞれ空間を指し示す言葉であり、「厚み」は空間を構成する石の強さのことです。

誤解してはならないのは「実利(地)」と「模様」は対比する関係ではないということです。

「空間」は盤上において不明瞭な領域であり、段階をおいて徐々に明確に定まっていきます。

二連星や三連星などの石の並びによって作られた空間のことを「勢力」と呼びます。

その後、隅の定石がひと段落して「実利」と「厚み」のワカレになると勢力から「模様」へと呼び名が変わってきます。

模様の規模によっては「大模様」と表現することもあります。

勢力から模様へと移り変わった空間ですが、さらに地として囲いやすくなってくると「地模様」と呼びます。

そして最後は100パーセントの厚みとなって「地」と呼べるようになるのです。

空間を囲うための段階は次の4つに分かれます。

・勢力

・模様(大模様)

・地模様

・地(確定地)

「地」とは「確定地」のことであり、それ以上荒らされない空間を表しています。

よく「黒地(または白地)を荒らす」と表現しますが、正確には「黒(または白)の地模様を荒らす」というのが正しい言い方でしょう。

プロ棋士が扱っている「地」という表現は「確定地」のことに他なりません。

目算するときもなるべく「最小値」の地を数えることをお勧めします。

ヨセ次第で減ってしまう分の空間は最初から数えてはいけません。

アマチュアはとかく「模様好き」であり、「最大限の可能性」を夢見て打ってしまう傾向があります。

何となく「勢力」や「模様(大模様)」がそのまま「地」になると考えてしまいがちです。

だからこそ「荒らし」に入って来られると、すごく嫌な気分になってしまうのです。

勢力から地にするまでは、並大抵の道のりでは辿り着きません。

盤端に向けて勢力を張るのであれば、割と簡単に地を作ることができます。

しかし辺や中央に向けて勢力を張るのであれば、模様の広さをそのまま地にすることは難しいでしょう。

囲碁は変化し続けるゲームですから、狙っている空間を地にするまでには多大な労力と読みを必要とします。

逆に勢力や模様を活かして、目に見えない別の空間に地を作ることもできます。

「目に見えない別の空間」とは勢力以下の空間であり、自陣の石を配置できていない場所です。

例えば「三連星」から派生して右辺に黒模様ができたとしましょう。

白は放っておくと手が付けられなくなるので、右辺へ荒らしに向かいます。

黒は右辺で戦っているうちに中央へ厚みを築くことができました。

すなわち中央に「黒の勢力」ができたことになり、今度は中央の厚みを基点として白の勢力圏である左辺に入っていきます。

左辺の攻防によって、ある程度の黒地ができたとしましょう。

すると一連の流れは次のようになります。

・右辺に黒の勢力を築く(三連星)

・右辺の勢力がそのまま模様になる

・荒らしてきた白石を攻めながら中央に厚みを作る(新しい勢力)

・中央の厚みを基点として、左辺に黒模様を築く

・黒模様から地模様へと変化して、最後は黒地となる

大切なのは模様を荒らされても「新しい勢力」を作って、別の場所に模様を再構築すればよいという考え方です。

始めの勢力(三連星)や模様の段階では、左辺にできる黒の勢力など知る由もありません。

もちろん必ずそうなるわけではなく、初めに築いた模様がどのような変化を辿って地に行き着くのかやってみなければわかりません。

勢力~地に至るまでの段階はまっすぐ経るのではなく、辺~中央であれば紆余曲折して当たり前なのです。

限られた可能性と広がる可能性

「実利vs模様」とはすなわち「現実vs可能性」と置き換えることができます。

実利は確定していて、それ以上増えることも減ることもありません。

「ヨセ」と「手抜き」の関係で多少は増減するかもしれませんが、計算上は確定した数値を出すことができます。

一方で模様は不確定要素が多く、減る可能性だけではなく増える可能性すらあります。

「増える」「減る」というのは相対的な言葉なので、模様をどこまで数えるのかによって基準となる数値は変わってきます。

基本的には模様の「最大値」を導き出すと良いでしょう。

これ以上増えないであろう最大値を出してから、そのうち「何割」程度の実利を回収できるのかを判断します。

先ほどは実利の「最小値」を数えるのが良いと書きました。

つまり「模様」は必ず減っていくものであり、「実利」は多少なりとも増えていくものです。

局面にもよりますが、「100目規模の模様」と「確定地30目」で争っているとしましょう。

「確定地30目」とは実利の最小値を数えたものであり、今後じわりと増えていくことが予想されます。

その一方「100目規模の模様」とは可能性の最大値を数えたものであり、最終的に実利として残るのは全体の何割かにとどまります。

模様はおおよそ「5割」くらい囲えないとちょっと厳しいと考えておきましょう。

例えば黒模様に白が突入してきた場合、どうあれ白石は生きなくてはいけません。

白が生きるということは最低でも「2目」以上の地が付くということです。

そうやって実利を得ている白地はじわじわ増えてきて、コミを加えると見た目以上に大きな白地が付くことになります。

黒模様は最大値から減っていく一方ですが、上手く残せれば白に決定的な差を付けることができます。

もちろん模様に入ってきた白石を攻めることで、新たな(厚み)や模様を築くこともできます。

模様を敷いて可能性を追い求めるのか、それとも地を稼いで現実を追い求めるのかは人それぞれでしょう。

あるいは最大値の決まっている模様こそ「可能性が限られている」と見ることもできます。

一方で実利の最小値だけを数えていれば、あとは増えていくだけです。

そのため実利こそ夢が膨らみ「可能性が広がっている」と見ることができるでしょう。

ただ実際の対局では「武宮正樹vs趙治勲」のように完全なる「模様vs実利」にはそうそうなりません。

模様を経営しながら実利を稼いでいるほうが一般的であり、また実利を稼ぎながら模様を広げようとすることもあります。

いずれにしても模様を上手く経営する秘訣は「厚みの活用」に他なりません。

模様に薄みがあれば補強して然るべきですし、蓄えた厚みをただ漫然と囲うようではいけません。

「厚みを囲うな」の格言の通り、盤端を利用せず石同士で地を囲うのは最も効率が悪いのです。

厚みは「攻め」に利用すべきです。

囲碁においての「攻め」とは相手の石を囲うことであり、攻めることで空間を掌握しやすくなります。

「あなたの石を取りますよ、取りますよ」と脅しながら、実は空間を掌握するのが目的です。

攻める調子を利用して模様を囲う、または新たな勢力(厚み)や模様を築いていきます。

模様を活かして勝つのは並大抵ではありません。

だからこそ「模様の碁」を打ちこなすことができれば、少なくとも初段以上の実力を備えていることになります。

上達するためにも「模様の碁」をたくさん打ってみましょう。

模様を上手く囲うように工夫することで、本来の「地」を囲うまでのプロセスを自ずと理解することができます。

より囲碁への理解を深めることこそ上達への近道になります。

好き嫌いせず、どんな碁でも打ちこなす気持ちで盤面に向かいましょう!