「囲碁における詰碁の役割とは何か?」について考察していきます。

囲碁における詰碁の役割

検証可能な領域

あなたはなぜ詰碁を解くのか、ちゃんと理解していますか?

この問いに対しては

「詰碁を頑張ったら、読みの力がついて上達するから」

という回答がほとんどでしょう。

確かにその通りです。

詰碁を解くことにより、読みの力が向上して棋力アップにつながります。

しかし気を付けなくてはならないのは、詰碁の取り組み方でしょう。

詰碁とは「囲碁における検証可能な領域」を指します。

つまり詰碁を実戦に活かすためには「検証」を繰り返さなくてはいけません。

よく言われるのは「解けなかったら答えを見ましょう」というアドバイスです。

「解答から筋を学んでくださいね」といった意味合いですが、これでは詰碁を解く意味がありません。

詰碁を解く上で、最も大切なのは「考える過程」です。

どういうプロセスで読みを組み立てていくのか、そこが最重要ポイントになります。

とはいえ解けない問題ばかりでは、一向にその先へ進めません。

そこで解けない問題にぶち当たったら、迷わず答えを見てみてください。

そして解答から筋を学び、再度その問題を解き直してみましょう。

「答えを見てからすぐに解き直す意味はありますか?」

そういう声が聞こえてきそうですね。

大いにあります。

なぜなら囲碁は「暗記科目」ではないからです。

社会のテストで「豊臣秀吉」という解答を見てから、すぐに解き直すのは意味がありません。

しかし数学のテストで「x=2」という解答を見てから、すぐに解き直す意味は十分にあります。

勿論、解き方と合わせて答えを見ても効果に何ら変わりありません。

「豊臣秀吉」という解答には分岐が存在しませんが、「x=2」という解答には複数の分岐が存在するはずです。

分かりやすく「三目中手」で考えてみましょう。

外ダメが全部詰まった状態の三目中手の問題には打つ場所が3つしかありません。

真ん中に打たなくては、部屋を2つに分けて生きられてしまいます。

では、外ダメが1つ空いた状態の三目中手ではどうでしょうか?

初心者の方にとっては、外ダメ1つが悩みの種になります。

囲碁はダメを詰めることで「アタリ」へと導くのが基本だからです。

仮に三目中手を解けずに答えを見たとしましょう。

すると「なるほど、真ん中に置けばいいのか」と納得します。

そのあと「でも、外ダメを先に詰めるのはどうなんだろう?」という疑問が湧いてきます。

解答を見てからでも、疑問点を「検証する」ことができます。

人によっては「そんなの見返す必要もないだろう」と仰る方もいるかもしれません。

そういう方は次の問題に進んでしまって構いません。

いずれ「難しい問題」にぶち当たります。

そのとき「解答を見てもよく分からない」という事態が必ず起こります。

まさにその状況こそ、詰碁を「検証する」チャンスなのです。

これってどういうことか、あなたは分かりますか?

そうです、囲碁における「対局と検討」に他なりません。

もし勝って当たり前の相手なら、あなた自身検討する意味はないのかもしれません。

しかし拮抗した実力差では、勝負の行方は二転三転します。

「あの時、こうしておけば」「あそこで、こっちだったら?」なんて疑問が湧いてくるのは当然でしょう。

むしろ何の疑問も湧かないようでは、上達はおぼつきません。

「実践と検証」は囲碁上達において必要不可欠なものです。

ただし実戦ではあまりにも検証すべき範囲が広すぎて手に負えません。

だからこそ、詰碁を解くことにより「検証不足」を補います。

対局だけでお腹一杯になっている方は少々ビタミン不足かもしれませんね。

検討をすることで、囲碁におけるバランス感覚を調整します。

詰碁もまた然りです。

答えを見てお腹一杯になるのではなく、疑問点を解消してこそスッキリします。

詰碁のような「検証可能な領域」をくまなくチェックすることにより、実戦における読みにも大いに役立ちます。

枝葉の検証

囲碁の読みとは決して一本道ではありません。

まず次の一手をいくつかの選択肢から決めなくてはなりません。

それに対する相手の反応を何手か想定しておき、その先の分岐をまたそれぞれ考えなくてはならないでしょう。

すなわち単純な「3手読み」など存在しないのです。

黒A,B,Cの選択肢からAを選び、それに対する応手がまたA,B,Cあり、それぞれに対してさらにA,B,Cを考えます。

すると読み筋としては「3×3×3=9通り」の想定を3手読みと称しています。

これは迷えば迷うほど、読む手数は増えていかざるを得ません。

先ほど紹介した「ダメが1つ空いた三目中手」の読み筋を考えてみましょう。

答えを知る人には間違いなく「1手読み」もしくは「0手読み」です。

読みを入れる必要すらありませんからね。

しかし初心者の方には初めから4通りの選択肢があります。

さらにそれぞれの分岐を細かく分けていくと、読み筋としては膨大な手数になります。

まずは外ダメを詰めた場合です。

次に相手の選択肢は3通りに絞られますが、真ん中以外なら最後の取りまで読みきらなくてはなりません。

実はここが非常に厄介なところなのです。

相手が最善手を打たない場合、こちらの失着が成立してしまいます。

これは実戦にもよく出てくる現象でしょう。

悪手×悪手=好手という図式が成立します。

先手の悪手を後手が咎められず、結果として好手になってしまうパターンです。

実戦なら勝ち、詰碁なら答えと一致してしまうため、検証せずそのまま通り過ぎてしまうかもしれません。

安易な解答を防ぐためには他の分岐をくまなく検証する他ないのです。

相手が最善の応手をしてきたなら、初手から読み直さなくてはなりません。

そうやって1つ1つ分岐を潰していき、最終的な答えにたどり着きます。

途中で正解を得ても、本当に正しいのか他のルートも検証したほうがよいでしょう。

ひと目で解ける問題に限り、検証せずに答えを出しても構いません。

囲碁における読みとは?

囲碁における第一感を鍛えるには?

※詳しくはこちらをご覧ください。

ひと目で解ける形をどんどん増やしていけば、必然的に検証できる範囲が広がります。

一本道の読み筋をいくら掘り下げても、実戦ではほとんど通用しません。

シチョウがよい例でしょう。

級位者でもシチョウなら一本道の読みで十数手以上追いかけられます。

囲碁は将棋とは違い、タテの読みよりもヨコの読みが重要視されています。

囲碁と将棋のゲーム性の違いとは?

※興味のある方はこちらも合わせてご覧ください。

詰碁において「答えを見たのに検証しない」というのは、一本道の読みしかできないことを示唆しています。

たとえ初心者であろうとも、打つ手を迷っている時点で「読み」が生じているはずです。

囲碁における棋理とは?

こちらの記事では「勝手読み」について言及しています。

囲碁の実戦における「正解」はいくら検討しても答えを出せません。

だからこそ、己の読み筋に自信を持って「勝手読みしなさい」と説いています。

とはいえ答えを出せる場合もあり、特に詰碁のような限られた範囲内では解答を得るために最善を尽くさなくてはなりません。

「勝手読み」とは一本道の読み筋のことを言います。

その他の分岐は考えず、自分自身が決めた価値判断によって次の一手を決めていきます。

「最善の読み」とは複数の分岐をしっかり検証する読み筋のことを言います。

ありとあらゆる想定をしながら、考え得る限りの最善を尽くすのが読みの極意です。

この「最善の読み」を鍛えるために詰碁を解いていると言っても過言ではありません。

実戦において一本道の読み筋に頼らない「枝葉を検証する能力」が問われています。

締めの作業

実戦において詰碁とは選択肢の1つに過ぎません。

部分的な死活の大きさは全局的な価値判断に左右されます。

特に布石~中盤にかけて大場が残っているような状況では「急場より大場」となる場合が多いでしょう。

大場より急場とは本当なのか?

※詳しくはこちらをご覧ください。

詰碁の価値が高まるのは、文字通り「石が詰まってきてから」に他なりません。

すなわち変化の余地、フリカワリになる場所がなくなってきたら部分的な価値が跳ね上がるのです。

実戦において「死活」ではなく「詰碁」になる場面とは、いったいどういう状況なのか分かりますか?

そうです、隅や辺を荒らしに入ったときですね。

序中盤なら「打ち込み」になりますが、中終盤にかけては「荒らし」となります。

大きな違いは「地の出来上がり具合」です。

1子だけなら「勢力」であり、2,3子で囲っているなら「模様」と言えます。

それ以上は「地模様」であり、もう入る余地がなくなれば「地」と表現します。

また地とは「完成された厚み」のことでもあります。

囲碁における厚みとは?

囲碁における模様とは?

囲碁における地とは?

※興味のある方はこちらも合わせてご覧ください。

詰碁になるような状況は「地模様」を荒らしに行ったときでしょう。

もう1手かければ、立派な地になるというタイミングで入るのが荒らしのコツとなっています。

この「もう1手かければ」というのは判断が難しく、まさしくそこが詰碁の詰碁たるゆえんでもあります。

「このタイミングで入って生きられるのか?」

「もう1手かけずに囲いきれるか?」

棋力が上がれば上がるほど、1手1手を慎重に考えなくてはなりません。

級位者、特に二ケタ級の対局では「守り合い」になるため、なかなか詰碁になる機会が少ないでしょう。

しかしそれでは「地合い」の観点から、非常にぬるい打ち方になってしまいます。

布石から中盤を経て、いよいよ局面が煮詰まってきたら詰碁の出番です。

ちなみに「死活」は布石の段階から「急場」として扱います。

詰碁は他の場所との関係性を考慮しなくてよいものであり、死活は他との兼ね合いを常に考えながら打っています。

つまり詰碁とは「死活の一部である」ということです。

布石の中の定石、戦いの中の生き死に、ヨセの中の小ヨセといった感じでしょう。

そういう意味では、詰碁の役割とは一局の中において限定的なものに過ぎません。

ここのところをよく理解しておく必要があります。

” 詰碁 ”と” 死活 ”は別物!?それぞれの違いと勉強法

(出典 さかもとブログ~世界一の囲碁講師~)

※詰碁と死活の違いについて「わからんベイビーだぜ」という方はぜひ参照してください。

一局における役割が限定的とはいえ、終盤の勝負に直結する局面に関わっているのは間違いありません。

詰碁を間違えて生きられた、あるいは殺されたとなれば、せっかくの好局も画竜点睛を欠いてしまいます。

詰碁とはいわば「最後の味付け」のようなものです。

揚げ物に甘ったるいハチミツをかけようものなら、それまでの苦労がすべて水の泡となります。

詰碁を勉強したからといって、棋力が飛躍的に向上するわけではありません。

囲碁はあくまでも「総合力」ですから、各分野をバランスよく勉強したほうが棋力の伸びは早いでしょう。

とはいえ最後の「詰め」を誤ってしまっては何にもなりません。

ヨセ然り、最後の仕上げは一局において欠かせない「締めの作業」なのです。

詰碁を重要視し過ぎるのもいけませんし、かといって軽んじるのもいけません。

お互いに積み上げてきた一手一手を終局へとつなげるためにも、しっかり詰碁に取り組みましょう。

中押し負けが少なくなったとき、あなたの碁は1つ上のステージへ登っているかもしれません。